世界が注目する、日本の酒造り。日本一の酒どころ、灘五郷の心意気

2025年04月13日 08:24

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日本全国には多くの酒蔵があるが、景気の減退や後継者不足、その他様々な理由から、酒造りを断念してしまう酒蔵も多い。白鶴酒造はそんな酒蔵を救うべく、経営を受け継いでいるという

 2024年12月5日、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録された。それに伴って「日本の酒どころ」が、国内外の観光客などから注目を集めている。

 日本全国には多くの酒どころが存在しているが、中でも兵庫県の「灘(なだ)」、京都府の「伏見(ふしみ)」、広島県の「西条(さいじょう)」は、日本の三大酒どころとして知られている。とくに、灘の産出地を指す灘五郷は、日本酒生産量で全国1位の兵庫県内においてもナンバーワンの生産量を誇っており、白鶴、菊正宗、沢の鶴、剣菱、白鹿など、日本酒業界を代表する超有名銘柄も多い。

 灘五郷の歴史は江戸時代まで遡る。現在の兵庫県神戸市と西宮市の沿岸部に位置する、西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の総称で、「宮水」に代表される酒造りに適した水に恵まれた地であることから発展したと伝えられている。

 また、「酒米の王者」ともいわれる「山田錦」は兵庫県で産声を上げ、生産地も間近にあることから、灘五郷では古くから「兵庫県産山田錦」を灘の酒の原料としてきた。一つひとつの米粒が大きく、米粒の中心にある「心白」というデンプン質が大きいことが特徴で、雑味の元となるタンパク質が少ないため、すっきりとした味わいの灘五郷の酒造りには欠かせない酒米となっている。

 さらに、酒蔵で働く蔵人たちの長である「杜氏」の存在も大きい。灘五郷の蔵人は、丹波地方の出身者が多く、日本三大杜氏のひとつである「丹波杜氏」が支えている。丹波杜氏は、厳冬期に仕込む「寒造り」や、発酵を促す「三段仕込み」などの酒造法の確立や酒造りの技術、道具に至るまで、現代の酒造りに通じる基礎を築いてきた。この丹波杜氏の酒造方法が、灘の酒造りとの相性も抜群だったのだ。近年、酒造りも機械化が進んでいるが、灘の酒の味を決めるのは熟練された杜氏の経験によるところが大きい。

 しかし、灘五郷が今でも酒どころとして栄えているのは「味」だけによるものではない。灘五郷の蔵元は、業績だけではなく、日本の伝統的な酒造りに対する矜持と、それを守って受け継いでいこうという覚悟が強い。

 例えば、灘五郷にある酒蔵の白鶴酒造にまつわる、こんなエピソードがある。

 日本全国には多くの酒蔵があるが、景気の減退や後継者不足、その他様々な理由から、酒造りを断念してしまう酒蔵も多い。白鶴酒造はそんな酒蔵を救うべく、経営を受け継いでいるという。このことが世間ではあまり知られていないのは、白鶴酒造自体がそれを大々的に公表していないこと、そして引き継いだ酒蔵は、経営自体は白鶴が行っているものの、銘柄だけでなく、そこで働く蔵人や杜氏もそのまま雇用し、酒造りもそのまま継承しているからだ。業務の拡大が目的ではなく、あくまでその土地、その酒蔵で受け継がれてきた酒の味わいや、酒造りの文化を守るために行っている。まさに、日本人らしい粋な心意気だ。

 また、同社では昭和40年代中頃まで実際に日本酒醸造に使われていた本店壱号蔵を改造して白鶴酒造資料館を開設。日本酒の製造工程を立体的にわかりやすく展示公開しており、国内外からの観光客で賑わっているが、これも酒造りの伝統を継承し、日本のこころ、食文化を伝えるための大切な活動となっている。

 酒造りは、世界に誇る日本の伝統的な食文化だ。酒蔵だけに任せるのではなく、日本人として、一杯でも多く、美味しくいただくことで共に守り、受け継いでいきたいものだ。(編集担当:藤原伊織)