【コラム】生活保護に群馬県桐生市の今後を期待する

2025年04月27日 08:57

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生活保護法は「最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」(第1条)と規定している。憲法25条を受けての法規定である

 生活保護受給世帯165万世帯(昨年12月現在)。昨年1年間の生活保護申請約25万6000件。申請件数は12年で最多という。生活保護制度は「最後のセーフティーネット」。

 高齢者の単身世帯増加に加え、賃金以上にあがる物価上昇で暮らしが成り立たなくなるケースも不思議でない。健康で働ける間、税を納めてきたのだから、暮らしが成り立たない状況になれば「権利」として躊躇なく行政の窓口へ行かれることをお勧めしたい。

 自治体職員は、この制度が憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために、病気や事故で働けなくなったり、高齢夫婦が二人の年金で生計を立ててきたが、独りになり暮らしが立ちいかなくなったなどの際の支援制度として設けられていることを自覚し、権利の侵害がないようお願いしたい。

 朝日新聞4月21日の報道は「びっくり」させるものだった。群馬県桐生市の生活保護行政を報じた。人口約10万人のまちだが「約10年間で生活保護利用者が半減、母子世帯は13分の1に激減した群馬県桐生市」(原文)で始まる記事。

 「生活保護利用者について『ろくでもねぇ』『あいつらはくず』と言ってはばからない職員もいた」「保護係の職員による恫喝、罵声は日常茶飯事で、他課職員でさえ聞くに堪えない内容だった。しかし誰も注意せず、制止しなかった(いずれも市職員からの証言)-(原文)などなど。

 彼らには住民生活を守る「公務員」としての意識がないようだ。同市が設置した第三者委員会の報告を受けた荒木恵司市長は「 生活保護制度の崇高な理念を身勝手な解釈で捻じ曲げ、組織風土の中に形成された悪しき慣行や極めてずさんな事務処理の数々について、問題発覚まで一切気づけなかった私どもの責任は重く、心から恥じている」との自戒するコメントを出した。

 あわせて「制度利用者並びに相談者の皆様に対して耐え難い苦痛や不利益を与えてしまったこと、桐生市民の誇りを著しく傷つけてしまったことに心よりお詫び申し上げます」と陳謝した。

 今回、桐生市をコラムに取り上げたのは、こうした事案で桐生市が改善するとした中身が、全国の自治体においても業務改善につながる材料になるだろうと思うから。是非、公務員の方々に一読願いたい。

 桐生市は今後、「被保護者」「受給者」という呼び方を改め「利用者」に統一を徹底する。県に職員を派遣し研修を実施する。生活保護行政の運営で模範的な先進自治体への視察研修を早期に実施する。

 職員体制ではケースワーカーを1名増員し、8名体制にする。査察指導員も1名増員し、2名体制とする。ケースワーカー8名のうち社会福祉士資格を有するケースワーカーを2名増員し3名体制に、女性ケースワーカーを1名増員し3名体制にする。医療や健康面からの生活支援の充実を図るため、保護係に保健師2名を配置することを決めた、としている。

 専門性を踏まえた対応を強化するため、キャリアコンサルタント資格を有する就労支援相談員およびケースワーカー経験のある面接相談員を各1名ずつ配置する。保護係への警察OBの配置はしない。

 相談体制では認識ちがいを防ぐことを目的に窓口相談を録音する。総務部に生活保護対応相談窓口を設置し、利用者がケースワーカーに話しにくい相談や苦情について、過去の問題も含め、受け付ける体制を構築する。

 生活保護業務運営の健全化計画を策定し、法令順守の徹底を図る中で組織としての改善状況を随時、確認するとともに、利用者への適正な対応を維持していくためのチェック機能を有するコンプライアンス体制を構築する。市議会にも逐次改善状況を報告する。

 荒木市長は「生活保護制度を必要とする方々、制度を利用する方々に寄り添った適正な運用に全身全霊を傾注する」とコメントを結んだ。

 この精神を忘れずに取組み、先進地として他の自治体の手本になるよう実効性をあげていただきたいと期待する。生活保護は申請の意思があれば誰でも申請することができるもの。本人が申請できない場合には同居の親族、扶養義務者が申請することもできる。日常の生活扶助から教育、住宅、医療、介護、出産、生業(なりわい)、葬祭まで、必要な分野で受けることができる。

 生活保護法は「最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」(第1条)と規定している。憲法25条を受けての法規定である。利用者を『ろくでもねぇ』『あいつらはくず』など、このような認識の方は公務員という職に適していないと改めて苦言を呈しておきたい。そのうえで、今後の桐生市に期待したい。(編集担当:森高龍二)