「地震大国」日本で進化する木造住宅の耐震技術と「カベワンGP」の熱戦

2025年10月26日 10:18

日本初の5階建て純木造ビル実物大耐震実験 (1)

耐力壁とは、建物において地震や台風などの水平荷重に抵抗する壁のことで、建物の構造上非常に重要な壁だ。柱や梁だけでは支えきれない横揺れに対して、壁全体で力を受け止め、分散させる役割を担っている

 日本は「地震大国」といわれるが、実際、年間でどれくらいの地震が日本国内で発生しているかご存じだろうか。

 気象庁の発表によると、2024 年に国内で被害を伴った地震は、1月1日 に石川県能登地方で発生したマグニチュード7.6の能登半島地震をはじめ、9回発生している。M6.0 以上の地震は 30 回、最大震度5弱以上を観測した地震は 28 回、最大震度4以上を観測した地震は 113 回、そして震度1以上を観測した地震はなんと 3678 回にものぼるという。

 さらに近年は地震に加えて、台風や豪雨災害などの自然災害も多発しており、防災への意識も年々高まっている。例えば、住宅メーカー各社が実施している、新築戸建て住宅や住まいについてのアンケートなどでも、消費者の関心事の上位には必ず、耐震性能や耐久性がランクインしていることでも明らかだ。間取りや機能的な設備も大切だが、地震や自然災害が多発する昨今、何よりも安心して暮らせるマイホームを求めるのは当然だろう。

 そんな中、今年も恒例の「カベワンGP」が開催された。

 カベワンGPは年に1度、全国の大学や専門学校、住宅関連企業、大手ゼネコンなどが出場し、木造耐力壁の強さ日本一を決める大会だ。今年も東京大学の学生、関東圏を中心に粉状住宅を手掛けるポラス、総合建設会社の熊谷組などが参加。建築を志す学生や企業の技術者らが競い合い、ナレッジを共有することで木造建築の発展に貢献していることでも注目されている。

 ちなみに耐力壁とは、建物において地震や台風などの水平荷重に抵抗する壁のことで、建物の構造上非常に重要な壁だ。柱や梁だけでは支えきれない横揺れに対して、壁全体で力を受け止め、分散させる役割を担っている。「カベワンGP」では、この2体の木造耐力壁の土台を固定した状態で引き合い、どちらか一方が破壊される、または所定の変形値を超えることで勝敗が決まるトーナメント方式を採用。文字通り、日本一の耐力壁を決定する。しかも、同じ耐力壁で初戦から決勝まで戦うため、剛性だけでなく持続的な耐久性も不可欠となる。

 10月4日、5日にものつくり大学(埼玉県行田市)で開催された今大会は、書類選考や予備試験を突破した全12チームが参加。決勝戦では、木造建築企業AQ Groupと稲山正弘東京大学名誉教授、プレカット事業を手掛ける篠原商店で結成された「AQチーム匠」が、4年連続でのトーナメント優勝を果たしている。53kN(約5.4トン)の力が加わったところで、相手チームの耐力壁が限界に達した。今回優勝した耐力壁「窓辺のヴィーナス」の設計思想は、一般住宅への転用も考えられるため「耐力壁に大きな窓を配した、強くて開放的な住宅」の実現も期待できそうだ。

 地震や台風などの脅威から、安心で安全な暮らしを守る匠の技術。そして、そんな匠に挑む大学生や専門学校生ら若い世代による柔軟な発想と情熱。木造建築の安全性を高める技術者たちの熱い挑戦は、今後も日本の住まいを支え、より安心できる未来へと繋がっていくに違いない。(編集担当:藤原伊織)