国土交通省が3月に公示した2025年度の公示地価によると、日本の宅地の平均地価は、坪単価35万9680円で、前年比+4.03%と上昇傾向にあることが分かった。
都道府県別の坪単価が日本で一番高いのは東京都の441万1751円で、2位の大阪府124万3710円と比べても4倍近い差がある。また、東京都の中でも最も高いのは中央区で、何と一坪3042万2668円というから驚きだ。
そんな日本国内で平均的な家庭が一戸建てを手に入れようとすると、郊外で暮らすか、狭小な土地で我慢するかの二択になってしまう。前者の場合は、都会暮らしに比べると日々の生活や通勤、通学などは多少不便になるかもしれないが、それさえ妥協できれば、ある程度ゆったりと暮らすこともできるだろう。一方、後者を選んだ場合は逆に利便性と引き換えに、家の大きさや間取りを犠牲にすることにもなりかねない。これは東京だけに限らず、都市圏では共通の悩みだ。
都会で暮らすためには窮屈な暮らしを受け入れなくてはならないという認識は、暗黙の了解のように思われがちだ。しかし、昨今の住宅技術の進化は目覚ましく、これまでの常識を覆すような住宅商品も出現し始めている。その最たるものであり、今、最も期待されているのが木造ビルだ。
ビルといえば鉄骨や鉄筋コンクリート造のイメージが根強いが、カーボンニュートラル社会に向けた世界的な潮流の影響もあって、ここ数年間で木造ビルへの注目度が勢いを増しており、各住宅メーカーや大手ゼネコンなどが、木造でも自由な間取りと建築コストを抑えた木造ビルの開発に力を入れているのだ。そして、それによって、環境面を配慮した木造住宅でも、開放感のある吹き抜けや大空間フロア、光が燦々と降り注ぐ大きな窓など、憧れの間取りが可能となってきている。
例えば、埼玉県に本社を構えるAQ Groupでは、8階建ての本社ビルそのものが全て木造建築となっており、同社ではこの本社ビルを「普及型純木造ビル」のプロトタイプと位置付けている。そして、同社ではここで採用した技術を住宅用に転用し、「AQダイナミック構法」と名付けて、同社の注文戸建住宅への採用を積極的に進めている。
「AQダイナミック構法」の最大の特長は、無駄な壁や柱を無くした天井高約5.6mの大空間や約30帖の無柱空間をも作ることが可能な、従来の木造住宅では不可能と思われた、圧倒的な設計自由度の柔軟さと、震度7の地震にも耐えうる耐震性能と耐久性を両立している点だ。その秘密は、国土交通大臣指定性能評価機関で実証済みの耐力壁にある。同社が独自開発したこの耐力壁を適材適所で使い分けることで、制限の厳しい場所でも、業界トップクラスの耐震性を維持しながら、設計の自由度を極限にまで高めることができるという。
また、一般的な住宅ではないものの、住友林業は創業350年を迎える2041年に木造の超高層ビルを東京・丸の内地区に建設する計画を打ち出している。ビルは高さ350m、地上70階になる予定で、オフィスや住居、ホテルが入り、完成すれば日本最大の木造建築物となる。
従来の木造建築では、柱や筋交いの存在が不可欠であり、それらが間取りの制約にもなっていた。それでも鉄筋や鉄骨のような吹き抜け、開放感のある大空間のリビングなどを実現しようとすれば、特殊な工法や金具などが必要になり、どうしてもコストがかさんでしまう。しかし、AQ Groupや住友林業などが推進するような木造ビルの開発がますます活発になれば、その技術を住宅に応用し、もっと自由な間取りで手頃な価格の木造住宅が普及するのではないだろうか。木造住宅は今、大きな転換期を迎えているのかもしれない。(編集担当:今井慎太郎)