キリン、血管老化研究を拡大 高齢化で「未病市場」に注目

2026年05月16日 10:16

今回のニュースのポイント

キリンホールディングスは、高値血圧の中高年を対象とした研究で、L-シトルリン摂取により血管内皮機能や肩こり・腰痛などの自覚症状改善を確認したと発表しました。高齢化が進む中、食品・飲料各社は「治療前」の未病領域への研究を強化しており、健康寿命やQOL向上市場への関心が高まっています。

本文
 キリンホールディングスは、松山大学との共同研究により、ウリ科の植物に多く含まれるアミノ酸の一種「L-シトルリン」を継続摂取することで、高値血圧(最高血圧130〜139mmHgまたは最低血圧85〜89mmHgの層)の中高年における血管内皮機能が改善し、それに伴い肩こりや腰痛などの身体的な自覚症状が軽減することを確認したと発表しました。本研究は、45歳から70歳の血管機能が低下している健康な成人66人を対象に、信頼性の高い「ランダム化二重盲検比較試験」を用いて12週間にわたり実施。そのうち研究開始時に高値血圧だった層において、血流依存性血管拡張反応(FMD)検査による血管拡張機能の有意な改善が認められました。また、酸化ストレスの指標である血中「3-ニトロチロシン」量の減少も確認され、血管機能維持研究の発展に向けた基礎的知見が得られました。本成果は日本栄養・食糧学会大会で発表され、国際学術誌「Nutrition Research」に受理されています。

 今回の研究発表における最大の本質は、キリンが疾患を抱える「患者」ではなく、血圧がやや高めながらも病気とは診断されていない「未病領域」の健康成人層に着目してエビデンスを構築した点にあります。L-シトルリンは体内で一酸化窒素(NO)の産生を促し、血管を拡張させて血流を改善する作用が知られていますが、これを高齢化に伴う血管機能の維持という文脈へと再定義しました。近年の医学研究では、血管機能の低下が単に動脈硬化のリスクを高めるだけでなく、脳の認知機能、運動機能、さらには日々の気分状態にまで多角的に影響を与えることが明らかになっています。キリンは血管の健康維持を起点に、中高年のQOL(生活の質)を包括的に改善するアプローチを重視しています。

 マクロ経済や社会情勢の観点から見ると、食品・飲料大手による健康・予防領域への傾斜は必然の戦略と言えます。深刻な少子高齢化を背景に、政府は膨れ上がる医療費の抑制に向け、疾患の「治療」から「予防・未病対策」へと舵を切っており、関連政策とも強く接続しています。また、機能性表示食品制度の浸透や消費者の健康意識の高度化に伴い、市場では単なるイメージ訴求ではなく「科学的根拠(エビデンス)」の有無が購買行動を左右する厳しいエビデンス競争が始まっています。キリンは発酵や栄養、機能性素材に関する長年の研究開発力を活かし、免疫、睡眠、脳、そして今回の血管領域へとヘルスサイエンス事業のポートフォリオを拡大しており、従来の飲料会社から「健康・予防プラットフォーム企業」への事業領域の拡張を着実に進めています。

 国内の食品・飲料市場が人口減少によって縮小を避けることができない中、ウェルビーイング関連市場は世界的な成長分野であり、日本企業にとっては最大の付加価値領域です。今回の研究で、血管機能という目に見えにくい指標を「肩こり」や「腰痛」といった消費者が生活実感として共感しやすいQOL項目に結びつけたことも、マーケティングおよび商品開発を見据えた戦略的なアプローチと言えます。製薬、食品、飲料の境界が曖昧化する「ヘルスインダストリー」の競争環境において、おいしさと高い健康価値を高次元で両立できるかが、今後の食品企業の持続的な成長力を左右する鍵となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)