今回のニュースのポイント
内閣府が2026年6月8日に公表した5月の景気ウォッチャー調査では、街角の景気実感を示す現状判断DI(季節調整値)が43.6となり、3か月ぶりに改善しました。しかし、景気の分岐点とされる50を大きく下回る状況は続いています。背景には物価高や中東情勢への根強い警戒感があり、企業・消費者ともに慎重姿勢を崩していません。数字上は持ち直しがみられる一方、現場レベルでは「回復実感の乏しい景気」が続いている実態が浮かび上がりました。
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5月の現状判断DI(季節調整値)は43.6となり、前月から2.8ポイント上昇しました。分野別に見ても、家計動向関連が43.8(プラス3.3ポイント)、企業動向関連が43.7(プラス2.2ポイント)、雇用関連が41.5(プラス0.1ポイント)と、すべての分野で改善が確認されました。なかでも際立ったのが飲食関連DIの動きで、前月の34.6から44.5へと9.9ポイントも跳ね上がっており、全業種の中でも特に大きな改善幅を記録しました。初夏の外食需要の持ち直しが現場の景況感を押し上げた形となり、前月まで続いた急速な悪化には一定の歯止めがかかった格好です。その一方で、住宅関連DIは31.5から34.8への3.3ポイントの改善にとどまるなど、家計分野のなかでも回復の足取りには依然として強弱のまだら模様がみられます。
ただし、DIが上昇したからといって景気が良くなったとは言い切れません。景気ウォッチャー調査では50が景況感の分岐点とされており、50を下回る状態では景気が「悪い」と感じる回答が依然として優勢であることを意味します。実際に現状判断DIは43.6、先行き判断DIも40.7にとどまっています。この数字以上に現場の厳しさを明確に映し出しているのが、方向性ではなく現在の景気実感そのものを捉えた「原数値」の内訳です。
原数値において、現在の景気を「悪くなっている」「やや悪くなっている」と答えた回答者の比率は合計で37.8%に達しています。これに対し、「良くなっている」「やや良くなっている」と答えた比率はわずか16.3%にとどまります。つまり、現場では「悪い」と感じている人が「良い」と感じている人の2倍以上も存在しており、今回の改善はあくまで「最悪期の悪化ペースが緩和した」あるいは「悪化に歯止めがかかった」段階にすぎません。内閣府も総括判断において「このところ持ち直しの動きに弱さがみられる」としており、景気が拡大局面に入ったとは位置づけていないのが実態です。
今回の調査で最も特徴的だったのは、緊迫化する中東情勢への言及が全国的かつ幅広い業種へ急速に広がったことです。内閣府の総括判断の文言にも「景気は、中東情勢によるマインド面の下押しを中心に、このところ持ち直しの動きに弱さがみられる。先行きについては、中東情勢による不透明感がみられる。」と明記され、中東リスクが今回の調査全体を貫く重要なテーマとなっています。実際の景気ウォッチャーのコメントを見ると、建設・製造業からは「ナフサ不足で包装資材が足りず、建築現場で遅れが出始めている(北陸・プラスチック製品製造)」や、「住宅資材の供給不安や原油価格高騰が受注の重荷(甲信越・金融・建設関連)」といったサプライチェーンへの不安が数多く報告されています。また、小売・飲食業でも「中東情勢や円安で商品値上げが続き、生活必需品以外は買い控えが続く(九州・商店街)」や、「今後の値上げで買い控えに拍車がかかる懸念(四国・酒販店)」など、中東発の原材料・物価不安が共通の重荷になっている姿が浮き彫りになりました。
生活者の行動を詳細に読み解くと、賃上げの浸透という前向きな動きがある一方で、消費者行動には依然として強い節約志向、すなわち「生活防衛モード」が色濃く残っていることが分かります。スーパーやコンビニなどの現場からは「週末のまとめ買いでガソリン代を節約する(北海道)」、「買い回り頻度が下がり、セール日にまとめて買う(甲信越)」、「複数購入が減り、セール品に集中(九州)」といった、極めて防衛的な買い方が具体的に報告されています。旅行や外食といったサービス消費には一定の勢いがみられたものの、「旅行費用上昇で宿泊から日帰りに変更する団体が増加(南関東)」など、楽しむ場面においても「値段を見ながら慎重に選択する」という防衛姿勢が貫かれています。現在の景気の良し悪しそのものを評価する現状水準判断DIも44.5と50を下回っており、家計側から見ても現在の経済水準自体に安心感は広がっていません。
先行きに対する見方も慎重です。2~3か月先を示す先行き判断DIは40.7となり、前月から1.3ポイント改善したものの、2025年末に記録していた50前後の水準に比べると明らかに低く、「先行きも横ばいからやや悪化」とみる回答が依然として過半数を占めています。家計や企業の先行きDIが40前後で足踏みするなか、雇用関連の先行きDIにいたっては39.2と前月から0.9ポイント低下しました。現場からは「採用はしたいが、物価高や中東情勢で先行きの人員計画が立てにくい(九州)」といった声が上がっています。
かつての日本経済における景気悪化の主因は、仕事そのものがない「需要不足」でした。しかし現在は、地政学的リスクや原油・資材価格の先行き、ナフサや半導体の供給体制、中東情勢の長期化といった「先行きが読めない不確実性そのもの」が経済活動を抑制しています。受注や来客は極めて悪くはないものの、コストとリスクが予測できないために、企業は価格転嫁や積極的な投資、人員計画へのアクセルを踏み込めず、消費者も所得が増えても支出を増やしにくい状況にあります。今回の景気ウォッチャー調査は、日本経済が従来の需要不足型の景気停滞とは異なる、「不透明感が経済活動を抑制する局面」へ移りつつある可能性を示しているようにも見えます。
景気ウォッチャー調査は、官庁統計では捉えきれない現場の空気感を鮮明に映し出す「景気の体温計」です。今回の結果から見えてくるのは、景況感の数値がテクニカルに改善しながらも、将来への安心感や確信は全く回復していないという現実です。企業も家計も「足元は何とか持ちこたえているが、先は読めない」と感じている状況が続いており、中東情勢や物価動向が落ち着かない限り、本格的な景気回復への道のりはなお不透明と言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













