TPP交渉参加「平成の開国」になるか

2013年03月16日 17:59

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TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加へ。安倍晋三総理は15日、交渉参加を表明。国益を保持、増進させ、未来の子孫のために日本が国際市場で世界第3位の経済大国として歩むべき道として、新たな「経済圏」の枠組みに参加する一歩を踏み出す決断を下した。

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加へ。安倍晋三総理は15日、交渉参加を表明。国益を保持、増進させ、未来の子孫のために日本が国際市場で世界第3位の経済大国として歩むべき道として、新たな「経済圏」の枠組みに参加する一歩を踏み出す決断を下した。

 参加11カ国全ての了解を取り付けて、交渉のテーブルにつけるのは早くて6月になる。しかし、その準備とともに、交渉参加そのものに国論を2分してきた交渉参加反対派の多くの懸念にどう対応していくのか。安倍政権は内外に対し、抽象論でなく、まさに具体的な対応策を提示し、理解を得、結果を出し続けていかなければならない。

 安倍総理は「経済的メリットに加えて、同盟国たる米国、そして自由、民主主義といった価値を共有する国々とアジア太平洋地域の新たなルールや経済秩序を作り上げる。これは、日本の安全保障にとっても、この地域の安定にも大きく寄与することは間違いない」とし「さらに、TPPのルールは、その先にある東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)といった、より大きな構想のルール作りのたたき台になる」と交渉参加することの意義を強調した。

 今回の結論は野田政権が継続していたとしても、同じところにたどり着いたのではないかと私個人は感じている。ただ、交渉参加をするうえで、少なくとも、結論の引き延ばしが許されない状況の中で、日本の進む方向について安倍内閣が明確にしたことは評価すべきことなのだろう。2013年3月15日は時の内閣が新たな世界市場への一歩を決断した日と位置付けられよう。

 安倍総理は15日午後6時からの記者会見で「TPP協定に向けた交渉に参加する決断を致しました。その旨、交渉参加国に通知を致します」とまさに「決断」を発表した。

 「決断」にあたっては「いろいろな意見を承ってきた。そうした意見を吟味したうえで本日の決断に至った」と「決断」を何回も口にした。そこに総理の判断の重さが伺えた。

 総理は参加の理由について「地球表面の3分の1を占め、世界最大の海である太平洋がTPPにより、ひとつの巨大な経済圏の内海になろうとしている。TPP交渉には太平洋を取り囲む11カ国が参加をしている。TPPが目指すものは太平洋を自由に物やサービス、投資などが行き交う海にすることであり、世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏が生まれつつある」と背景を語り、日本は自由貿易体制の下で成長を続けてきたとした。

 安倍総理は「日本が現在、少子高齢化、長引くデフレなど大きな壁にぶつかっており、いつしか、内向き志向が強まってしまったのではないか」と警鐘したうえで「日本だけが内向きになってしまっては成長の可能性もない」とし「TPPはアジア・太平洋の未来の繁栄を約束する枠組みだ」と決断の第一の理由にあげた。

 また、関税をゼロとしたときを想定した前提でも経済効果については「わが国全体としてはプラスの効果が見込まれている」とした。政府試算で「農林水産物の生産は3兆円近い減少を見込んでいるが、これは関税を即時・全て撤廃し、国内対策は前提としないという極めて単純化された仮定での計算によるものであり、実際には今後の交渉によって、悪影響を最小限に留めることは当然のことであり、本当に恐れるべきは、過度の恐れを持って、何もしないことではないか。前進することをためらう気持ち、それ自身だ」と訴えた。そして「私たちの次の世代、そのまた次の世代に、将来に希望の持てる強い日本を残していくためにともに前に進もう」と理解を求めた。

 安倍総理は「国益をかけた交渉はこれからで、今、入り口に立ったに過ぎない」とし「日本の主権は断固として守り、国益を踏まえて最善の道を実現すると約束する」と強調した。総理のこうした決意表明は17分近くに及んだ。

 懸念材料は多い。農林業が農林産業としての力をつけ、国際競争の中で独自性を発揮できるのか。安価な野菜や穀類が入る一方で、国内産米の輸出が進めば、安全でおいしい国内産米は国内の庶民の手の届かぬ存在にならないか。ファミリーレストランクラスの外食産業のコメが外国産米で占められるようになり、国内産米は料亭クラスでないと使われなくなるのではないか。

 残留農薬や食品添加物の基準や遺伝子組換え食品の表示義務や遺伝子組換え種子規制、輸入原材料の原産地表示、BSE基準など、食の安全・安心は保障されるのか。日本の食の安全基準が優れているだけに、やはり不安は残る。社会保障の分野でも、国民皆保健制度は大丈夫か。原則、すべてのものが交渉のテーブルに載せられ、そこでの交渉力の問題となる。最初からテーブルに載せないわけにはいかない。

 安倍総理は記者団から「コメ、麦、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖といった重要品目や国民皆保険制度など、自民党は聖域として最優先で確保するよう決議したが、最優先で守り抜く決意はあるのか」と質され「われわれは、それを胸に強い交渉力を持って結果を出していきたい」と答えた。世界第3位の経済大国であることを背景とした交渉力を発揮したい考えだ。

 また、農業に対するダメージについては「関税がゼロになり、全く対応をしないという前提の数字であり、(農林産物の生産が3兆円減と)そういうことにはならない。ピンチをチャンスに変えていくことこそが求められている。農業・農地の多面的機能を頭に入れながら様々政策を駆使して守るべきものは守っていかなければならない」と強調した。安倍総理は「強い農業、攻めの農業、農業・農地の多面的機能を守るための対策をしっかり議論していきたい」と繰り返した。

そして、官邸からのメールでも総理は自身のメッセージとして「先の総選挙での国民との約束は必ず守ります。農村やふるさと、国民皆保険など、日本の国柄を、私は断固として守ります」と国益を守ること、公約を守ることを強調して、交渉参加の決意を締めくくった。

 TPP交渉では多くの分野で、これから対応を迫られることになる。その交渉状況を総理はつぶさに国民に示し、課題開示を恐れず、公表して頂きたい。また、その解決策については与野党を超えて提起して頂きたい。それが国益につながるだろう。TPP。かつて菅直人衆議院議員が総理だったころ「平成の開国」と言った。国益を考えた開国となるのかどうか。真価は安倍政権の交渉力にかかる。(編集担当:森高龍二)