政治、経済、スポーツなど、各ジャンルで印象に残る出来事が多かった2010年も、フィナーレの時を迎えようとしている。この一年を振り返ってみれば、多くの日本国民が忘れかけていたナショナリズムを呼び起こすようなトピックスが多かったように感じる。しかし全体を通してみると、混迷する日本の実情を国際社会に対して如実に露呈した年となってしまったと言えるのではないだろうか。特に尖閣諸島沖の中国漁船激突事件やロシアのメドベーチェフ大統領の北方領土訪問など、近隣諸国との領土や海洋資源を巡る関係に緊張が走り、日本の外交政策について改めて疑問を抱いた人も多かっただろう。
そんな中、ヤマハ発動機 <7272>が「2010年マリン10大ニュース」という、海に関する出来事を通して一年を振り返る目的のアンケート調査を実施し、その結果をマスコミ向けに発表している。同アンケートは海洋スポーツ、マリンレジャー関係者など約700名に、今年の1月から10月(一部11月)の間で、新聞・雑誌・インターネットなどで取り上げられたマリンに関するトピックスの中から、印象に残った出来事を選出してもらい、ランキングをつけるというものだ。
その結果を見てみると、やはり第1位は尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件となっている。この出来事は、日本政府の事件後の対応や、その後の映像流出問題など、内閣の浮沈にも関わるような事態へと発展しかねない程の一大事となった。経済においても、緊張による相次ぐ中国観光客の訪日キャンセル、官民の人事交流が一時的な停滞。さらには、中国政府がレアアースの日本への輸出を一時停止するなど、ハイブリッドカーや携帯電話、家電製品の材料として今やなくてはならない存在となっているレアアースの輸入の90%が中国頼みとなっていた日本経済にとっては、打撃は少なくなかったと言える。この出来事は、日本の外交政策や危機管理体制など政治的な要素だけではなく、中国頼みとなっている現在の日本経済をも見直させるきっかけにもなったのではないだろうか。投票者の「今は口先だけで海洋国家と唱えるだけの日本が、この事件をきっかけに実態の伴った海洋国家に脱皮してほしい」「海上保安本部の巡視船と不審船の映像が流失し、現場の緊張感がインパクトを持って伝わってきた。日本の外交対応に危機感を持った」などといったコメントからも、この事件がもたらした社会全体への影響の大きさ、深刻さが伺える。
さらにランキングを見ていくと、年明けの1月6日に起こった、南極海で反捕鯨団体「シーシェパード」の抗議船が日本の調査船に体当たりして大破する事件もベスト10にランクインしている。こちらも日本の国益を侵害する重大な出来事だが、その後の和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁をテーマにしたドキュメンタリー映画「The Cove」の公開などもあり、反捕鯨団体の過激な活動については全世界で議論を呼んだ。尖閣諸島、南極海と、海に絡むトピックスでは、「衝突」というのが今年のひとつのキーワードとなってしまったようだ。
国際問題にまで発展した大きな出来事から悲惨な海での事故のニュースなどが目立つ中、未来に向かって希望を抱かせてくれるトピックスもしっかりとランクインしている。東京電力 <9501>、ヤマハ発動機などの協力で東京海洋大学の賞雅寛而(たかまさ・ともじ)教授らのチームが、海上では世界初となる電池推進船を開発し、実験運行を開始したというニュースや、水産業の技術開発に向けた補助事業で国内では初めてとなる、燃油を使わず電力だけで運行する小型電動船外機船を使った省エネルギー化実証試験が長崎県対馬市の厳原町で実施されたというニュースなどが、今後の発展を期待させる出来事として、マリン関係者からの注目が高かったようだ。
また、マラソンとヨットで世界を一周する「アースマラソン」に挑戦中のタレント・間寛平に関するトピックスがトップ10内に2つもランクインしている。ガン治療のために一時中断したものの、もう少しでゴールを迎える間寛平のチャレンジスピリットに共感を覚えた人も多かったようだ。中には「間寛平さんの活躍により、ヨットがニュースになることは、業界にとってメリットであり、応援したい」といった業界関係者ならではの意見も見られた。
9月に公開された海上保安庁の潜水士(通称”海猿”)たちの活躍を描いた「THE LAST MESSAGE 海猿」が大ヒットするなど、日本近海で起こった大きな出来事と相まって、海上の仕事に関する一般の人々の関心が高くなった2010年。四方を海に囲まれた島国でだからこそ、「日本の海」を守り続けることが、国益を守るためにいかに重要かを改めて考えさせてくれた一年だったのではないだろうか。