【クラウン】トヨタ流マーケティングが正しかった?

2013年05月12日 20:06

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2012年に登場したクラウン・ハイブリッドが好調だ。昨年12月に発売した新型は3月末で2万6587台、うち半数以上の1万4700台がハイブリッド車だ。

 2012年に登場したクラウン・ハイブリッドが好調だ。昨年12月に発売した新型は3月末で2万6587台、うち半数以上の1万4700台がハイブリッド車だ。先代クラウンのハイブリッド車構成比15.8%だった。新型はハイブリッド車が牽引する恰好で販売台数を伸ばしている。

 日本を代表するセダン、トヨタ・クラウンは1955年にデビュー。2012年12月に登場した現行モデルは14代目だ。

 クラウンといえば6気筒エンジンをフロントに搭載し後輪を駆動する高級でコンサバティブなFRセダンの代表。このクラウンにトヨタ・プリウス、エスティマなどに次いで、ハイブリッド車が加わったのが2001年の11代目のS17型クラウンだ。

 改めて振り返ると、11代目S17型クラウンはトヨタ・クラウンとして記念すべきモデルだった。

 ひとつはマイルド・ハイブリッド・モデルの追加。もうひとつは、日本のセダンとして「安心・信頼」を標榜するロイヤル・シリーズのほかに、「走りを追求するスポーティモデル」としてアスリート・シリーズが発表されたことだ。そして、クラウンとして伝統のストレートシックス(直列6気筒)エンジンを搭載する最後のモデルとなった。ハイブリッドという新しいパワートレーンの追加とトヨタ最後の直列6気筒エンジンが併存したのが、このS17型クラウンだった。

 このクラウン初となるハイブリッドシステムは、プリウスのような本格的に環境性能の高さを追求したモデルではなく、簡易追加型のボルトオン・ハイブリッドシステムと呼ぶべきものだった。しかし、S17型ハイブリッド車はクラウンとして初めて国土交通省低排出ガス認定制度で50%低減レベル、八都県市指定低公害車認定で“優”を獲得。これが後述する公用車需要を生む。

 クラウン搭載のマイルド・ハイブリッドは、結果としてトヨタ製ハイブリッドシステムに、プリウス系とは異なるハイブリッド車として新しい流れをもたらす。その後登場するレクサス系セダンモデルなどのハイパワー型ハイブリッドシステムの基本形を提示したわけだ。ある意味、ターボによる過給と同じような効果をハイブリッドで得ることが出来た。このクラウン・ハイブリッドは、同じ仕様のロイヤルよりも当時の価格で15万円だけ高い442万円だった。これも後述する公用車・社用車効果をもたらす。

 その後、クラウンの本格的なハイブリッド・モデルは、2009年に登場する13代目S20型まで待つことなる。この世代のハイブリッドは「ロイヤル」でも「アスリート」でもない、グレードとしての「クラウン・ハイブリッド」だった。

 そのパワーユニットは3.5リッターV6ガソリンエンジン(296ps)をモーター(200ps)がアシストするという、当時のクラウンで最大のパワーを得たモデルで、5リッタークラスの出力&トルクを発生した。まさに「ガソリンエンジンをモーターで過給する」ターボ車のようなハイブリッド車だった。
 
 S20型クラウンとしてはもちろん最速で、史上最も速いクラウンとなったわけだ。価格も540〜620万円とクラウンのなかで最も高価なグレードとなった。トヨタは「ロイヤル」「アスリート」の上にある最高級グレードを「ハイブリッド」と設定したのだ。ハイブリッド公用車としての購入動機は一気に下がった。

 2012年に発表となった14代目現行クラウン・ハイブリッドのパワーユニットを構成するガソリンエンジンは出力・トルク178ps/22,5kg.m、電機モーターは143ps/30.6kg.m。この数値は先代クラウン・ハイブリッドの数値には及ばないものの、現行アスリートの3.5リッターモデルに匹敵するパワーとトルクを発生する。今回のロイヤル・シリーズに3.5リッターモデルはなく、事実上ハイブリッド・ロイヤルがクラウン・ロイヤル系の最速モデル(車両本体価格410万円〜536万円)となる。

 トヨタがクラウンをロイヤルとアスリートに分けた理由は、個人ユーザーの減少を防ぐことが目標だった。1999年のカタログにアスリートがカタログモデルとして登場するまで、クラウン(ロイヤルしか存在しなかった)は法人需要のショーファー・ドリブン車として比較的低廉なモデルが販売の主流になっていた。ロイヤルは後席乗員を最優先に考えた設計。内装やシートのセッティングも後席重視のアレンジがなされたグレードが販売の中心だった。

 しかし、2001年に“取り敢えず”追加した「マイルド・ハイブリッド」が、「環境意識が高いのだと思われたい」企業の役員車や「環境省・国交省」などの中央官庁の公用車として(高くなかったから)引き合いが多かった。

 今回、S20型でロイヤルに高価な3.5リッター車(3.5アスリートGは575万円)は設定していない。多少高価(最高価格車ではないし、先代に比べて100万円以上安い)でもハイブリッド車をカタログに載せた意味は、この“法人需要&公用車需要”に応えた結果なのだ。いかにもトヨタ流マーケティングのなせる技といえる。(編集担当:吉田恒)