縁の下の力持ち。再生医療を支える日本の技術力

2013年05月19日 16:36

 2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、一躍、時の人となった京都大学の山中伸弥教授。

 山中教授は、皮膚などの体細胞から、様々な細胞になりうる能力をもった人工多能性幹細胞、いわゆるiPS細胞を作り出すことに初めて成功。この成果によって、難病の仕組みの解明や新薬の開発、再生医療の実現など、多くの医療分野で新たな道が開かれたと期待が高まっている。

 そんな生命科学の先端研究分野で必ず必要となってくるのが顕微鏡。しかも、生体内の細胞や組織などの集合体を1分子単位でより微細に観察することが必要となってくる。

 オリンパス株式会社<7733>は金沢大学と共同で、生体分子の動きをより正確に観察するための「高速原子間力顕微鏡」を開発してきた。

 高速原子間力顕微鏡は、光学顕微鏡や電子顕微鏡とは異なり、結像光学に基づく顕微鏡ではなく、カンチレバー先端の探針で試料表面をなぞって高速でスキャニングすることにより、表面の凹凸の観察画像を形成する機器だ。共同開発に当たっては、主に基礎研究およびシステムの開発を金沢大学が担当し、オリンパスは主にこのカンチレバーの開発を担当した。

 スキャニングの最中に探針が試料から離れてしまうと正確な画像が得られない。かといって探針を試料に近づけすぎると、今度は試料にダメージを与えてしまう。

 本研究では、速さと正確さを両立する高速制御技術を導入することによって、従来は不可能だった、従来品の約1000倍となる毎秒12.5フレームという世界最高速で、生体分子の撮影が可能な、高速原子間力顕微鏡を世界で初めて実現した。

 その功績が認められ、共同開発先の金沢大学とともに「平成25年度全国発明表彰」の「発明協会会長賞」を受賞した。同賞は、金沢大学理工研究域数物科学系教授の安藤敏夫氏とオリンパス株式会社研究開発センターの酒井信明氏に送られた。
 
 また、同発明の実施に対して、国立大学法人金沢大学とオリンパス株式会社に「発明実施功績賞」が授けられた。医学界、ひいては人類の未来に大きく影響するかもしれない偉大な研究を実用化する上で、日本の確かな技術力は、縁の下の力持ちとして欠かせない。偉大な研究にも負けない賞賛を贈るべきではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)