待機児童とは、認可保育所へ入所申請をしているにも関わらず、その保育所が満員などの理由で入所できない児童のことをいう。この問題は長年にわたり、幼児を持つ親を悩ませている。厚生労働省によると、2012年4月現在の全国の待機児童は2万4825人。11年より731人減少しているが、その内の79・3%は都市部に集中している。ワースト3は、名古屋市が最多の1032人で、札幌市929人、福岡市893人と続いている。
そんな中、横浜市は4月1日時点で待機児童の数が、ゼロになったと発表した。10年には待機児童1552名でワースト1位だったのだから、見事な大躍進といっていいだろう。
09年に初当選した林市長は、まず待機児童対策費を09年度の約72億円から12年度には約157億円にまで増やした。また4年間で保育所の定員を1万2000人増員したことをはじめ、様々な保育サービスの展開や企業との連携を強化した。その結果、企業が運営する保育所は10年4月時点の2倍以上に増え、横浜市内全体の4分の1を占めるまでになった。その他にも、全国初の、あらゆる保育サービスの相談を受ける「保育コンシェルジェ」を創設した。
安倍首相は、「私は、待機児童の早期解消に向けて、このいわば、横浜方式を、全国に横展開していきたいと考えています」と述べている。また横浜市内の保育所を視察して、「『待機児童の解消はやればできる』と示してくれた」と横浜市の取り組みを評価している。また、政府は4月に発表した成長戦略第1弾で、17年度までの5年間で保育の受け皿を40万人増やす方針を打ち出している。
この「横浜方式」の中でもっとも特長的な対策は、民間企業に保育所の経営を積極的に促したことだろう。企業参入を認めない自治体がある中、横浜市は社会福祉法人と同額の補助を出す。これが功を奏して、前述したように民間の保育所は前述したように認可保育所の4分の1まで占めるようになった。
しかし、安倍首相も支援するこの「横浜方式」に課題は残されていないのだろうか。自治体が抱える待機児童の問題の状況は異なっている。それを「民間企業を誘致する」という画一的な施策だけでよいのだろうか。例えば、民間の参入には、その会社が倒産したらというリスクも当然あるし、それを考慮して企業参入を躊躇する自治体もある。また経営効率を優先して保育経営の質が落ちるのではないかと、危ぶむ声があるのもまた事実である。
例えば、企業が事業から撤退した場合は、どう対応するのか。横浜市の民間の保育所を運営する企業が、4年余りで保育事業から撤退し、別の大手企業に事業が譲渡されたケースでは、市が前払いしていた運営費の返還を求めているが、回収できていないとの報道もある(『週刊東洋経済』2012年1月21日)。
とはいえ、もちろん、横浜市が積極的に認可保育所を増やし、待機児童をゼロにした功績は大きい。上記のような課題をきめ細やかにクリアしていけば、この「横浜方式」はより素晴らしいものになるだろう。(編集担当:久保田雄城)