自治体による公契約条例の制定が相次いでいる。2009年11月に千葉県野田市が全国に先駆けて制定したのに続き、現在に至るまで川崎市(10年12月)、相模原市(11年12月)、多摩市(同)、渋谷区(12年6月)、国分寺市(同)、厚木市(12年12月)の各市が制定。他にも調査検討委員会を設置したり、札幌市のように条例案の審議を進めている自治体もある。全国的な動きに広がりつつあると言えるだろう。
公契約条例とは、自治体の事業を受託する事業者に対し、労働者に最低賃金法を上回る独自の賃金額を支払うように規定するものだ。近年、自治体が公契約を締結する際、選定方式として一般競争入札を導入するケースが増加している。その結果、事業者がダンピングによってコストの削減を余儀なくされ、労働者の賃金低下を招いているのである。大阪市では、09年、清掃業務を受託した事業者の労働者が、週6日勤務しても月収が生活保護の基準額を下回り、生活保護が認定された。公契約条例は、こうした「官製ワーキングプア」をなくすための切り札とみられている。
しかし、ことはそう単純ではなさそうである。条例で定められた賃金の下限額の支払いが遵守されているかどうかを確認することが困難だからだ。各自治体は、入札時に労務単価を記入した労働者配置計画書を提出させるほか、中間や工事完了時にも履行確認するなど、一定の措置は講じている。ところが、履行確認は書類による方法にならざるを得ず、必ずしも実態通りとは限らない。
条例では、労働者の申し出によって立ち入り検査を行うなどの規定が設けられているが、弱い立場にある労働者からは言いにくいというのが現実であろう。
公契約をめぐる問題は低賃金という官製ワーキングプアだけではない。06年6月、東京都港区の高層区立住宅で男子高校生がシンドラー社製のエレベーターで死亡した事故は記憶に新しいが、保守点検を行っていたのは港区から指定管理者として管理を任されていた港区住宅公社だった。また、同年7月には、埼玉県ふじみ野市の市営プールで小学2年生の女子児童が給水口に吸い込まれて死亡する事故が発生している。管理は指定管理者として委託を受けていた民間事業者が行っていた。公契約による事業の委託は丸投げになりがちで、業者側の労働者に対する教育訓練や安全対策が不十分だった結果といえる。
不幸な事故を防ぐためには、事業者におけるコンプライアンス(法令遵守)の確認が形式的なものであってはならない。(編集担当:坪義生)