近頃、缶コーヒーのスタイルが変わりつつある。自販機でも店頭販売でも、通常の缶コーヒーだけではなく、ボトル缶タイプのコーヒー飲料が売り場を占める割合が、年々増えているのだ。
2012年に富士経済が発表した「清涼飲料市場の最新トレンドと将来展望2012」によると、ボトル缶コーヒーの03年の販売量は2.1万キロリットル、販売額は53.8億円だったが、10年後の2012年ではなんと、販売量は13倍の27.5万キロリットル、販売額に至っては15倍の810.1億円と飛躍的に拡大しており、ボトル缶コーヒー市場が順調に伸長していること、そして缶コーヒーの需要が「缶」から「ボトル缶」へ移行しつあることが窺える。
ボトル缶の最大のメリットは、キャップが閉められることだ。これまでの主流だったプルタブ式だと、一旦開封するとすぐに飲み干す必要があった。そのため、需要としてはどうしても「のどが渇いているとき」という条件が付きまとう。
しかし、ボトル缶ならば、キャップが閉められるので一気に飲み干す必要はなくなる。ペットボトル同様、職場や学校などでチビチビと時間をかけて飲む「チビダラ飲み」をすることが可能になるのだ。
また、キャップが付いていることにより、倒しても中身がこぼれないという安心感も付いてくる。最近は、オフィスでも一人一台のPCが当たり前になりつつある中、デスクの上で缶コーヒーを倒してしまったら、一大事だ。PCや大切な書類が、たった一本の缶コーヒーで台無しになってしまうこともあるかもしれない。その点、キャップ付きのボトル缶ならば、キャップさえ閉めていれば、たとえキーボードの上で倒したとしても、PCを破損させることはないし、大切な書類をコーヒーまみれにしてしまうこともない。
また、ボトル缶になることで、これまでと大きく異なる点は、無糖のブラックコーヒーが主流になっていることだ。これまでの缶コーヒーだと、糖分の多いミルクコーヒー的なものが多かった。しかし、缶やペットボトルよりも飲み口が大きいボトル缶ならば、コーヒーの繊細な香りや味わいをより深く楽しむことができる。
そのお陰で、糖分やカロリーを気にする女性客も顧客に取り込め、すそ野が広がったことも大きな躍進の一つだろう。
例えば、日本コカコーラ<2580>が発売している「イリー イッシモ エスプレッソ ブラック」などは、イタリアのエスプレッソブランド・イリーの豆と技術を使用し、これまでイメージカラーに黒が使わることの多かったコーヒー飲料のイメージを覆した赤とシルバーのデザインでスタイリッシュさを演出。女性客も手に取りやすい商品となっている。
また、糖分が少ないことで量を飲むことも可能になった。その面でも、チビダラ飲みが可能なボトル缶は最適なスタイルといえよう。飲料メーカー各社も相次いで、これまでの270ミリリットル前後のサイズから、400ミリリットルに容量アップされたサイズを販売しており、需要の変遷が窺える。
JT<2914>の「ルーツ・アロマブラック」をはじめ、サントリー「BOSSシルキーブラック」、アサヒ飲料<2598>の「ワンダ 大人ワンダ ザ・ブラック」などがこぞってシェア争いを繰り広げる中、コーヒーのロングセラーブランド「ダイドーブレンド」を展開するダイドードリンコ株式会社<2590>も、同ブランドからブラック無糖タイプ「ダイドーブレンド ブレンドBLACK」の400ミリリットルサイズの新商品を4月から販売し、人気を集めている。
ブラックコーヒーは、ただでさえ味へのごまかしが利かない商品だ。しかも、ボトル缶で提供することで、香りや余韻もこれまでよりさらに重要なポイントとなる。それだけに各社が今まで培ってきた技術の見せどころとなるだろう。それだけに、ダイドードリンコのように独自の製法でコーヒー本来の味わいにこだわりを持ってきたメーカーにとっては、多少有利な状況なのかもしれない。
また、オフィスや学校でチビダラ飲みされることで、長時間に渡ってデスクの上などに置かれることが想定される。他人の目に触れる機会が多くなることは、メーカーのイメージアップにも貢献するだろう。そうなれば、もはや1ジャンルの問題ではなく、ボトル缶コーヒーの売れ行きは、飲料メーカー全体のシェア争いにも影響するとみるのは、いささか考えすぎだろうか。
ともあれ、メーカーが自信を持って世に送り出す、香り高いブラックコーヒーが手軽に楽しめるようになったのは、嬉しい限りだ。(編集担当:藤原伊織)