もはや「美味しい」だけでは生き残れない。2006年に発売され、ブレイクしたエナジードリンク「レッドブル」は、この夏に向けて、従来の250ミリリットル缶に加え330ミリリットルのペットボトルを投入する。また、追随するアサヒ飲料も、注目のエナジードリンクブランド「モンスター」に、糖類・カロリーゼロの「モンスター アブソリュートリー ゼロ」を加え、追い込みをかける。
別ジャンルに目を向けると、トクホ飲料の分野で大きなシェアを持つ花王は、2003年に発売した「ヘルシア」シリーズの隠し玉と呼び声の高い「ヘルシアコーヒー」を発表し、シェアの巻き返しとさらなる拡大を狙う。今年の夏は、こうしたブランド・ラインナップの充実でシェア拡大を見込むメーカーが多いように感じられる。
2012年における清涼飲料市場は、前年比2.2%増の約5兆円。3.7%減のミネラルウォーター類を除き、2013年も各分野での伸長が見込まれている(富士経済)。その中でも特に市場を牽引すると考えられているのが上記の「エナジードリンク」と「トクホ飲料」だ。
カフェイン・アルギニン等を含有し、エネルギー補給を目的としたエナジードリンク。そして特定の保険機能を示す有効性・安全性に関する科学的根拠のデータを提出し、消費者庁の認可を受けたトクホ飲料。この2つに共通するのが「付加価値」である。
この10年、夏日における最高気温が頻繁に更新されるように、日本の夏は明らかに「暑く」なってきている。そんな背景から飲料業界は売り上げを伸ばしているわけだが、だからと言って、どんな商品・ブランドでも生き残りが保証されているわけではない。今や顧客にとっての「飲料」とは、単に喉を潤す美味しいだけのものではなく、プラスアルファの「付加価値」が求められ、それなくしてヒットはおろか生き残ることも不可能なのだ。
言うまでもなく、味は大前提である。清涼飲料水であるエナジードリンクは「エネルギー補給」という訴求に加え、味に敏感だと言われる日本人の舌に適ったからこそ市場を拡大させることができた。そして、トクホ飲料は「保険機能の認可」に加え、今回のヘルシアコーヒーのように様々なバリエーションを用意することで幅広い年代層の取り込みを見込んでいる(「ヘルシア」ブランドは、ヘルシア緑茶だけでなく、ヘルシアウォーター・ヘルシアスパークリング等のラインナップがある)。
味、そして付加価値という「地力」がその商品になければ、例え大々的なプロモーションを仕掛けて一度は手に取ってもらったとしても、顧客がその商品をリピートする可能性は低いと言えるだろう。
いずれのジャンルも、ブレイク時には爆発的な成長を遂げ、飲料業界の一角を担うまでに登り詰めた。しかし、その伸長が頭打ちになる時は必ず訪れる。それまでに新しい「付加価値」を生み出すことができるか。それが飲料業界における生き残りの分岐点と言っても過言ではない。(編集担当:山原伊知郎)