燃料電池が本格事業化へ、各自治体も実証実験に参加

2013年06月08日 19:55

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緊急用燃料電池のイメージ。100Wの電力を連続2時間使用できる能力で、大きさは340×340×240mm、重量6~7kg程度。複数個を直列使用すれば大きな電力の供給も可能だ

 燃料電池という単語が自然に耳に入ってくるようになったのはいつ頃からだろう。記憶では1990年代の中盤に「ハイブリッドカーの次に来る“エコカー”の筆頭」として、自動車メーカー各社が「燃料電池車」をさかんに喧伝した。その頃からだと思う。その後、21世紀を迎える前に、恵まれて東京青山に本社がある自動車メーカーの燃料電池試作車のステアリングを握った。その当時は1台数億円と言われていたが、実証実験を含めて環境庁(当時)や東京都などにリースという形で数台納品されたはずだ。しかし、その後「燃料電池車」についてのニュースはあまり聞こえてこない。

 ところが昨年秋、京都の半導体メーカー「ローム」と燃料電池開発のベンチャー「アクアフェアリー」が京都大学の技術支援をうけて、固体水素源を用いた小型高出力の燃料電池を開発・発表した。そもそも“水素源”という単語が理工系出身者以外の人間には分からない。この単語を理解するには「燃料電池」の基礎を知る必要がありそうだ。

 まず会見で、この燃料電池の基本を簡潔に語ったローム研究開発本部副本部長の神澤公氏の弁を引用しよう。「燃料電池は内部に電気を蓄える乾電池などとは根本的に異なります。水素をエネルギーとした“発電機”と考えた方が分かりやすいでしょう」

 つまり燃料電池車が登場した頃の簡単な説明を思い出せばいい。「水を電気分解すると、水素と酸素ができる。だから、水素と酸素を反応させて電気をつくる」のが燃料電池だと。

 そこで発電型電池である燃料電池には“水素”が必要だが、その供給がなかなか難しい。90年代の燃料電池車の場合も頑丈なタンク開発が課題だった。そこで、一般的に手に入れやすい天然ガス、灯油やガソリンなどから水素を取り出して使うことから始めた。その水素を取り出す(改質)装置をも含めてシステムを構成する住宅用燃料電池などが生産されたのだ。改質して水素を生み出す元となる天然ガスやガソリンが“水素源”なのである。

 しかし、ロームの燃料電池はその水素源が固形。だからボンベやタンクは要らない。独自の技術で水素源であるカルシウム・ハイドライド(水素化カルシウム)をシート状に固形化し、カートリッジ状にしたことが肝だ。カートリッジのサイズは縦×横×厚さ38×38×2ミリである。このサイズでスマートフォンをフル充電する能力があるという。

 前置きが長くなったが、発表後に実施してきた市場ニーズ調査結果がまとまった。結果から申し述べると、携帯性の高いこの燃料電池に対する国内からの反応は「災害時の緊急電源として」の期待値が圧倒的に高かったという。そこで2社は、この燃料電池を災害時緊急電源として本格事業化するための実証実験助成金を「独立行政法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」に申請、5月8日に採択された。

 緊急電源としてのスペックを簡単に記すと、100ワットの電力を連続2時間使用できる能力で、大きさは340×340×240ミリ、重量6~7キログラム程度になるという。人が片手で運べる大きさ・重さで複数個を直列接続して大パワー出力も可能だ。また、外部からあるいは燃料電池からでも充電可能な二次電池を内蔵、あらかじめ外部から充電しておけば燃料電池と合わせて最大400ワットの出力も可能となる。この緊急電源の水素源となるカルシウム・ハイドライドのカートリッジは、カセットコンロのガスボンベ程度の大きさ重さになるという。つまり、そのカートリッジを10本備蓄しておけば、20時間の電力供給が実現するわけだ。カートリッジの寿命は20年だ。

 緊急時の実証実験には京都市、三重県、秋田県などの自治体が参加して、この秋から開始される予定。なお、製品のデザインを担当するのは、近年のLED信号機やJR東日本のSUICAチャージ機などをデザインしたプロダクトデザイナーの秋田道夫氏。秋田氏は「こうした製品はデザインすると言うよりも、使う人の声をリサーチしながら形としてまとめるのが私の仕事」と語った。

 ところで、気になるのはスマホやタブレットへの電力供給源、携帯型燃料電池だ。プロトタイプは出来上がっていて、展示品&デモ機もあった。また、アメリカなどからミリタリー分野での引き合いが強いという。しかし、「当面、日本国内の最大需要である“緊急時電源”として地盤を固めて、量産効果を見極めてから。(ポータブル電源への進出は)2年後ぐらいでしょうか」とロームの神澤公氏は語った。(編集担当:吉田恒)