経済産業省は9日、今夏の節電要請の目安となる全国9電力の需給見通しを発表した。安定供給の目安となる「電力供給予備率3%」は上回り、ピーク時も電力を確保できる目途がたったということのようだが、依然として電力の余力は乏しく、しばらく停止していた古い火力発電所をフル稼働させて何とか電力を確保するなど綱渡りの状況で、引き続き企業や家庭には節電の協力を呼びかけるという。また、こうしたエネルギー不足解消のために、低炭素化が後回しにされているきらいもあるが、低炭素化も重要な課題だ。
イギリスでは、2016年までに全新築住宅を、2019年までには全新築非住宅建築物のゼロカーボン化を掲げ、フランスでも2020年までに全新築住宅・建築物をエネルギー・ポジティブ(ゼロ以下)となるよう規定するなど、先進国を中心に住宅のゼロエネルギー化、低炭素化への取り組みが加速している。日本においても経産省・環境省・国交省が共同で実施する「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」の中間取りまとめにおいて、「2020年までに標準的な新築住宅でネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を実現し、2030年までに新築住宅の平均でZEHを実現すること」が目指すべき姿として掲げられている。
こうした中、住宅業界最大手の積水ハウス<1928>が、政府による取り組みを先取りする形で、省エネ(高断熱、省エネ機器)+創エネ(太陽電池、燃料電池)+パッシブ技術(日射や通風に配慮した設計技術)により「住まい心地向上」と「一次エネルギー収支ゼロ」の両立を目指す住宅「グリーンファースト ゼロ」の発売を8日に開始した。
太陽電池や燃料電池を組み合わせた環境配慮型住宅「グリーンファースト」を展開する積水ハウスは、これに蓄電池を加えた「グリーンファースト ハイブリッド」を2010年から展開し、2012年には先頭を切ってスマートタウンをまちびらきするなど、業界をリードする展開を続けている。その積水ハウスが新発売した「グリーンファースト ゼロ」は、これらを更に進化させたものである。
「グリーンファースト ゼロ」の第1の特徴は、その断熱性にある。「次世代省エネ基準」を標準仕様としてきた積水ハウスが、さらに開口部や壁、床等の断熱性を向上。次世代省エネ基準の一般住宅と比較して、30%もの断熱性向上を実現している。特に、高断熱サッシに加え空気より熱を伝えにくいアルゴンガスを封入した複層ガラスにより、熱が逃げやすい開口部においても高断熱を実現。省エネ基準では関東以南においても東北北部並みの高断熱仕様となり、冷暖房効率を高めるとともに、温度差の少ない室内環境を実現している。
第2の特徴は、「見守り」機能を持つHEMSを標準搭載している点であろう。発電量や消費電力量を見るだけのHEMSが多く見られる中、「グリーンファースト ゼロ」に標準搭載されるHEMSでは、積水ハウスが創エネ機器等の運転状況をチェックして診断。発電量が急激に低下するなどの異常が確認された場合には、必要に応じて点検訪問などを実施するという。この3電池の「見守り」機能を備えたHEMSの標準搭載は業界初となる。さらに、パナソニック製のHEMSをベースとしており、エアコンなどの家電機器の統一規格である「ECHONET Lite」に対応した家電機器であれば、HEMSを通して制御することも出来る。
コスト面としては、「グリーンファースト」の仕様から概ね一坪あたり5千円~1万円程度のアップとなるが、標準世帯であれば年間約30万円の節約になるという。積水ハウスでは、新築戸建て住宅のうち、この「グリーンファースト ゼロ」を2013年度で40%、2014年度には60%を目指す、としている。
日本のエネルギー事情を反映し、全消費電力量の31%を占める家庭部門でゼロエネルギー化を図ろうという、政府の施策を先取りする形となる同社の新たな提案。グリーンファースト比率が2012年時点で84%に達していることを考えると、同社の目標とする比率は十分に達成可能な数字であると言える。また、戸建住宅では業界首位の同社が率先して取り組むことで、家庭部門からのエネルギー消費を大きく減らすことができれば、低炭素化の加速やエネルギー不足対策にも大きなインパクトが期待できる。ペアガラスの標準化(2000年)、次世代省エネの標準化(2003年)など常に先鞭をつけてきた同社の新提案に注目していきたい。(編集担当:井畑学)