シェール・ガスと世界のパワーバランスの変化

2013年06月14日 15:27

 東日本大震災ですべての原子力発電所が停止し、日本の電力供給は逼迫したが、かろうじて供給され続けた。原子力発電所の代替となったのは休止していた火力発電所で、発電するための燃料は、たまたま供給元のカタールで余剰となった液化天然ガスだった。この余剰となった天然ガスは、年々消費量が増加する米国の需要増に合わせて生産拡大し用意した1億トンだ。シェール・ガスを増産した米国はこれをキャンセルしたことから、余剰分が日本に回ってきたのだ。

 日本のほかに、カタールの余剰天然ガスはロシアとの価格交渉の末、欧州へ輸出された。今まで欧州では独壇場であったロシアの天然ガスは行き場がなくなり、中国や日本などアジアでの市場を打診している。また、米国のシェール・ガスによる天然ガス増産により、火力発電に使っていた石炭は欧州へと流れ込んでいる。欧州の天然ガス需要は減少し、これに伴い、ロシアの天然ガスはますます余ることになる。今、アジア太平洋地域への輸出を狙い日本の企業と共同でLNG生産プラントを作る計画がある。資源のない日本にとってはシェール・ガスによるエネルギーのドミノ倒しで、天然ガスの価格交渉を有利に運べ、安価な天然ガスが入手できるのは歓迎するところだ。

 米国でシェール・ガスの生産拡大によって供給が過多になったことから、シェール・ガスの価格が低下してきたため、シェール・オイルに比重が移っているが、米国は天然ガスと石油の両方を自国での生産で手に入れることができた。シェール・ガス/オイルの生産によって雇用も増え、また産業にも明るさを取り戻しつつある。

 シェール・ガス/オイルの生産は北米が先行し、日本政策投資銀行の調査レポート(2013年02月18日発表)によると、米国は20年ごろに天然ガスの純輸出国になり、40年には天然ガス貿易収支で約450億ドルの黒字になると試算される、としている。米国は石油と天然ガスというエネルギーに対しての中東依存度が減少し、米国の外交戦略に変化が起きるであろう。そしてロシア、イランとの力関係にも影響しそうだ。このことは世界全体の国際環境が変化することになるかもしれない。

2000年代にシェール・ガスの商業生産が本格化し、天然ガス生産量が2011年には2000年比20%増と大きく伸びた米国。シェール・ガスは在来型天然ガスと違って世界中に遍在している。中でも技術的回収可能量としては米国のほかに中国が膨大で、調査されていないロシアと中東にもかなりの量と推測できる。各国でのシェール・ガスの開発状況を見ていきたい。

 
 中国:世界最大の推定埋蔵量を持つが、開発にはまだ時間がかかりそう。

 EIAが11年4月に発表したシェール・ガス資源の推定埋蔵量で中国は米国を抜いて世界最大の埋蔵量国となり、大量のシェール・ガスが眠っているとみられている。中国では石油資源が枯渇しつつあり、2030年には国内需要のほとんどを輸入しなければならないとの予測もあり、シェール・ガスが期待されている。シェール・ガスの地質調査は2000年の初めころからおこなわれ、シェール・ガスに取り組み始めたばかりだ。シェール・ガスが存在する頁岩層は中国では3000~4000メートルと米国よりも深くにあるため地層圧も高く、深い井戸を掘るのにかなりのコストが必要となる。またシェール・ガスが存在するとされた地域、例えば四川省では地層が湾曲しており、シェール・ガスを採掘する水平掘削は困難とされている。また、水圧破砕法は大量の水を必要とするが、この地域は内陸部に位置するため、水を確保することは容易ではない。シェール・ガスに取り組み始めて日も浅いことから採掘技術は商業ベースにまで円熟しておらず、汚染水の処理についての環境問題もある。また、ガスパイプラインの敷設も必要で、シェール・ガスを利用するには乗り越えないといけないハードルが多くある。

 ロシア:在来型天然ガスの輸出マップを描き直し、経済低迷を避ける。

 ロシアはシェール・ガスの調査がされていないのでその量については不明だが、在来型の天然ガスの産出国であることからかなりの量のシェール・ガスが期待できる。在来型の天然ガスが豊富なため、開発コストの大きいシェール・ガスへは北米の動向を注視している。

 カナダ:輸出への法規制もなく、タンカーでの輸送日数も有利。
 
 カナダは米国、ロシアに次ぐ世界第3位の在来型天然ガス産出国だ。自国での消費量より産出量が大きいカナダにとって米国は、パイプラインでつながれた輸出国だった。しかし、米国のシェール・ガス産出でカナダからの輸出量は減少している。カナダにおいてもシェール・ガスの技術的に回収可能な資源量はポーランドやフランスよりも多く、シェール・ガス採掘を手掛ける「LNGカナダ」に三菱商事が加わり11年より採掘が始まっている。カナダの西海岸にLNG施設を作り、LNGをタンカーで日本に輸出すると中東からよりも5日程早く到着し、さらに海賊被害などに遭遇する心配もない。また、カナダには米国のFTA(自由貿易協定)という制約がないのも大きな魅力だ。

 欧州:本格的採掘には至っていない。

 欧州ではフランスとポーランドにかなりのシェール・ガス/オイルの量があるとされているが、フランスでは11年7月に「水圧破砕による非在来型資源の開発・採掘を禁じる法」が採択され、実質的にシェール・ガス/オイルの開発はできない。90%以上の天然ガスをロシアに依存するポーランドにとって、米国エネルギー情報局(EIA)の技術的回収可能な資源量に大きな希望を持ったが、12年4月にポーランド国立地質調査所が発表したシェール・ガス資源量は、EIAが算出した量の10分の1で、試掘したところ商業生産に至っていない。欧州ではイギリスがシェール・ガスの採掘を進めている。

 オーストラリア:シェール・オイルを対象にまだ開発段階。

 従来型天然ガスで十分な埋蔵量があり、20年には最大の天然ガス輸出国になるとの見通しがある。シェール・ガスはパイプラインの敷設に大きなコストがかかり、また輸出するには液化する施設を必要とすることもあり、経済的に有利なシェール・オイルの開発が進んでいる。(編集担当:西山喜代司)