ネット全面解禁で求められるOTC医薬品とは?

2013年06月22日 19:45

 2013年6月5日に行なわれた成長戦略第3弾スピーチにて、成長戦略で掲げる戦略市場創造プランの「国民の健康寿命の延伸」の1つの施策として、安倍総理はインターネットでの一般用医薬品(OTC薬)の販売解禁を明言した。

 これに対し、中小の薬局が加盟する保険薬局経営者連合会からは11日、インターネット販売を解禁しても医薬品売上高の企業間の配分が変わるにすぎず、経済成長にはつながらないとする意見書が提出されるも、政府は14日、OTC薬のインターネット販売の解禁を盛り込んだ「日本再興戦略」を閣議決定した。

 また、この決定を受け、薬局チェーンなどでつくる日本チェーンドラッグストア協会も同日、これまで副作用のリスクが高いとしてネット販売の自粛を求めてきたOTC薬の第1類と第2類のほとんどの項目についても、ガイドラインを設けたうえで原則解禁することを決めた。

 ただし、最もリスクの伴う第1類のうち、医療用医薬品からのスイッチ直後の品目と劇薬指定品目25品目については、政府も専門家による検討会を設置して議論するとしており、協会もこれについては引き続き自粛する見通しだ。

 富士経済が6月11日に発表した「一般用医薬品(市販薬)の国内市場の調査結果」によると、2013年度の一般用医薬品市場は、前年比0.5%増の6072億円の見込みとなっている。

 スイッチOTCや肥満防止剤、禁煙補助薬などの需要が増えつつも、ドリンク剤の医薬部外品化などが原因となり、とくに09年の改正薬事法施行以降は、リスク分類第1類薬品を中心に店頭販売の規制が痛手となり、OTC市場は停滞傾向にある。今回のネット解禁で市場の活性化が期待されるとともに、OTCによるセルフメディケーションの促進により、通院や入院が減少したり、生活習慣病等の重症化の予防などにより、国民医療費増加を抑制する効果も期待されている。

 そもそも、OTC医薬品は「医師の処方を必要としない」医薬品。つまり、生活者自身が自分の健康を維持したり、悩みを解決したりするためにあるものだ。通院や入院するほどではない身体の不調の改善や予防は、ある意味では最も身近な医療ともいえる。

 そこで大切なことは、たとえ他人にとっては些細なことでも、本人にとっては死活問題にも等しい悩みもあるということだ。そして、そういった生活者の「ニーズ」の中にこそ、OTC医薬品の需要がある。

 例えば、女性の3.5人に1人が持つ悩みに毛孔性苔癬(もうこうせいたいせん)というものがある。これは、とくに思春期の若い世代に多く、上腕の外側や太ももの内側、そしてお尻などにぷつぷつ・ざらざらとしたものが出てくる症状だ。健康面において影響するものではなく、たいていの場合は、痛みもかゆみも伴わない。

 しかし、夏場などで肌の露出部分が多くなると、ぷつぷつ、ざらざら、黒ずみなどが目立ってしまい、とくに年頃の女性にとっては深刻な悩みになっているようだ。

 この需要にいち早く気づき、応えたのがロート製薬のOTC医薬品「メンソレータム・ザラプロ」だ。ザラプロは、伸びの良いさらっとした使用感のクリームで、3種の有効成分である尿素・トコフェロール酢酸エステル・グリチルリチン酸二カリウムと、ビタミンC、サリチル酸、天然保湿因子乳酸Na(湿潤剤)を配合している。

 他のOTC薬にも尿素製剤は多く見られるが、手荒れやかかとの荒れを訴求しているものばかり。しかも、それらの商品は尿素を20パーセント配合しているものが多いが、二の腕は皮膚がうすくてデリケートな部位なので、人によっては少し刺激が強いこともある。そこで、このザラプロでは尿素を10パーセントにとどめることで、肌により優しく、毛孔性苔癬の改善に特化したOTC医薬品となっているのだ。

 ザラプロの開発は、女性社員のある体験がきっかけになっているという。

 その女性は学生時代、同級生の二の腕にぷつぷつとした毛孔性苔癬があることに気がついていたが、その時はさほど気にも留めなかった。しかし、ロート製薬に就職してから長期休暇で帰省したときにその同級生と再会した彼女は、ふと、毛孔性苔癬の症状に着目した医薬品がない事に気づいたそうだ。痛みやかゆみはなくても、女性にとって見た目は大きな問題。ストレスの原因にもなる。そこで、これを解決する製品を出せば大きな反響を呼ぶのではないかと考えた。

 その後、社内プロセスを得て製品化されたザラプロは、発売前の売上予測を大きく上回る5倍を推移し、OTC医薬品では稀な1カテゴリーで年間10億円を達成しそうな勢いのある製品となり、成功をおさめている。まさに女性の「気づき」の勝利といえよう。

 先にも触れたように、09年以降、OTC市場は伸び悩んでいるが、その原因の一つには、生活者のニーズを捉えきれていないこともあるのではないだろうか。また、生活者がOTC薬に求めているものを捉えられないかぎり、ネット販売が解禁されても、保険薬局経営者連合会が主張するように、医薬品売上高の配分が変わるだけで、経済成長につながることはないかもしれない。

 しかしながら、ザラプロ開発にみられるような消費者目線で開発されるOTC医薬品が増えれば、購入の窓口が増えるのは、生活者にとっても企業にとっても、大きなメリットになり、市場を活性化させるだろう。そして、そこに気づいた医薬品メーカーが今後、伸びていくことになるのだろう。(編集担当:藤原伊織)