ここ数年で「動く広告」が急増している。電車の駅構内や空港、デパートやショッピングモールなどの商業施設のエントランス、市役所や大学などの公共施設に設置されたデジタルサイネージは、今や街の風景としてすっかり定着した感がある。
デジタルサイネージの概念自体は新しいものではなく、すでに20年ほど前から大規模な商業施設やビル広告などに利用されてはいた。急速に普及しはじめた理由としては、液晶ディスプレイ技術の発展と通信ネットワークの充実がある。
とくに2010年にシャープ<6753>が開発したLEDバックライトなどは革命的な技術であり、それまで液晶テレビの光源として用いられてきた「冷陰極管」(CCFL)に比べてオンオフの切り替えを瞬間的に行うことができるほか、高効率で省エネという特性を持っている。また、同社はそれに先駆けて09年9月に従来のASV液晶に対してもコントラストが非常に高く、すぐれた透過性と遮光性の両方をあわせ持った高性能パネル「UV2A」を発表しており、高精度の次世代液晶パネルを使うことで、日中の屋外でも視聴に耐えられる映像を示したことも大きいだろう。
さらに、ネットワーク化することで、事業者は広告展開を一元化することができるので、大幅なコストダウンが図れることも、普及を後押ししている大きな材料となっている。
ポスターなどのアナログ広告に比べて修正も容易でコストが削減できる他、即時に情報を一斉配信できることも大きい。このネットワークを使えば、たとえば地震が起こったときの地震速報や避難情報などをリアルタイムに一斉に配信することができるので、とくに公共の施設では、広告宣伝よりも導入する意味は大きい。
そして、デジタルサイネージが急速に普及している一番の理由は、やはり宣伝効果が高いからだ。人間は、動くものに目が向く本能的な性質がある。通常のポスターやチラシ、看板などの静的な広告よりも、デジタルサイネージの方が注目度は格段に上がるのだ。
現在、デジタルサイネージの次のスタイルを想起させるものとして、ジェイアール東日本企画が興味深い試みを行っている。その試みとは、電車の中吊り広告に同社と大日本印刷<7912>が共同で企画開発した、重さ約50グラム(制御部は約800グラム)のフレキシブルな薄型電子ペーパーを入れ込み、漫画を表示するという画期的なものだ。
この実証実験は、新潟エリアのJR線で7月4日までの期間限定で行われている。
新潟県は、赤塚不二夫氏や水島新司氏、高橋留美子氏など多くの人気漫画家を輩出している土地としても知られている。新潟市では、これにちなんで2012年3月に「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」を策定、漫画関連施設「マンガの家」「マンガ・アニメ情報館」などを次々と開設し、産学官民の連携で、マンガやアニメを通して、地域の活性化を図っている。
今回の実証実験では、柏崎市出身の漫画家、新沢基栄氏の代表作「ハイスクール!奇面組」や、新潟市出身の古泉智浩氏の「ところでここどこ」などが掲載されるほか、「マンガの家」「マンガ・アニメ情報館」のリーフレットなども表示される。
電子ペーパーは液晶などに比べて文字が見やすく、消費電力も圧倒的に低い。また電子的に何度も書き換えができるので、電車の中吊り広告などでの用途には最適なデバイスといえる。
広告メディアとしての、今後のデジタルサイネージの可能性や魅力をさらに広げる試みとして、この実証実験の結果は大変興味深いものとなりそうだ。(編集担当:藤原伊織)