カルチュア・コンビニエンス・クラブ<4756>が展開するTSUTAYAといえば、映画や音楽好きならば知らない人はいないといっても過言ではないだろう。筆者も今でこそ映画のレンタルはITunes Storeが中心だが、それ以前はTSUTAYAのヘビーユーザーだった。またTSUTAYAを知らなくても、街のコンビニ、ガソリンスタンド、スーパーマーケットなどの店舗で見かける同じ運営元の「Tポイント」なら知っているという方も多いだろう。
カルチュア・コンビニエンス・クラブが佐賀県武雄市より指定管理者として図書館の運営委託を受ける武雄市図書館のリニューアルオープン後の来館者数が6月末の時点で一昨年(昨年は改装により11月以降を閉館しているため、一昨年の来館者数と比較)の1年分の来館者数を上回る26万人となった。
この武雄市図書館は、4月1日にリニューアルオープンし初日に5千人以上が訪れた。1階の一部がTSUTAYA、それ以外が2階も含めて図書館エリアとなっている。全体の2割のスペースがTSUTAYAである。館内にはスターバックスもある。また自動貸し出し機もユニークで、一台で図書館所蔵本の貸し出しと、TSUTAYAの販売する書籍の購入もできる。それと驚くことに図書館所蔵本の貸し出しでも一日一回に限り3円相当のTポイントが付く。まるで「TSUTAYA図書館」である。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ・広報によると、そもそものきっかけは代官山にある蔦屋書店を樋渡啓祐市長が気に入っており、同社の増田宗昭社社長への直接オファーしたことで実現したという。また武雄市にとってカルチュア・コンビニエンス・クラブに運営委託をすることで、これまでに比べ年間約10%、1400万円の経費節減になる。
「TSUTAYA図書館」は、いわゆる従来の図書館らしさというものは稀薄で、そういった点で賛否があるのも事実だ。しかし、そのほとんどは図書館にノスタルジーを求める情緒的な批判であるように筆者は思う。公立図書館の目的というのは、図書館法によって「国民の教育と文化の発展に寄与すること」と定められている。「教育と文化の発展」が損なわれるものでない限り、民間が運営しても何ら問題ないだろう。しかもそれが市の経費節減になるなら尚更である。ただ、ここで注意しなくてはならないのは、図書館は「ベストセラー中心の書店」に決してなってはいけないということだ。特に研究書や専門書といったある種の書籍はたくさん売れるものではないので、どうしても価格が高額になりがちだ。そういった本を手厚く所蔵することこそが、「国民の教育と文化の発展に寄与すること」だからだ。なによりも広い見識の上での選書が必要である。
「図書館がTSUTAYAになってしまった」という違和感も確かになくはない。しかしながら、米国と並び世界で最も進んだ高度資本主義のこの国では、これは歓迎されるべきことであろう。そして、そんな状況の中から新しい時代の新しい知性が誕生するはずである。(編集担当:久保田雄城)