10年以内に「世界的な電力危機」到来 これを回避する術は?

2013年09月07日 19:40

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8月に開催されたロームの「パワー半導体プレスセミナー」では、同社の常務取締役の高須秀視氏による講演も実施された。

 「マクロ経済の環境は、これまでの10年間と、これからの10年で大きく変化する」──。これは国際的なシンクタンクであるIHS社が所有するデータをもとにした同社日本代表の南川明氏の発言だ。

 そして、次いで口にした「国際エネルギー機関(IEA)の資料では2020年頃に新興国を中心に世界の電力需要が供給を上回り、“世界的な地球規模の電力危機”がやってくる」だろうと。しかし、と南川氏は続け、「電力危機が訪れる以前に各国は自国の省エネ策を施行し、国毎に危機を乗り切る(乗り切らざるを得ない)政策を打ち出すはずだ」とも解説した。

 このことから、各国で国民に対し電力使用を制限する規制や法律、そして新たな発電技術開発や電力削減技術開発に対する補助金支給など、さまざまな施策が生まれるだろうと予測できる。

 さて、今後10年で確実に起こるとされる「世界的な電力危機」をもたらす原因は何だろうか。それは、新興国の電力消費量の増加である。2010年に中国が米国の電力消費を追い越したように、2020年にはインド電力消費が米国を抜き去る。

 新興国における電力消費量増加はモーター駆動の増加によるところが大きい。南川氏によると現在、世界の電力消費の55%はモーターの駆動に使われている。産業機器用では機器そのものの駆動や冷却用のファンなどで、家庭用としてはエアコン、洗濯機などの白物家電で使用される。モーターの駆動には大きな電力を要し、エアコンのように常時駆動する場合には大きな電力を常時消費することになってしまう。

 この莫大な電力を効率的に使うために、モーターの駆動にはインバータという電力変換装置が使われる。例えばエアコンでは、搭載されたインバータが周囲の環境に応じてモーターの回転数を調整することで、風量や温度などのアウトプットも調節できるようになり無駄な電力消費を削減する。このように、インバータの有無や性能が、電力消費に大きな影響を及ぼすのだ。
 
 しかしインバータについて、南川氏のデータに目を覆うような現実がある。日本が保有するエアコン740万台(事業用も家庭用も含め)は、ほぼすべてインバータが搭載されている。しかし、2100万台保有の中国は7%だけ。エアコンを830万台保有する北米ではインバータ搭載率0%と、新興国だけではなく、先進国でもエアコンのインバータ搭載率は極めて低い。全世界で概算5500万台のエアコンがあるが、インバータは20%しか搭載されていない。

 前述したように、産業機器モーターを中心にエアコンなどの省エネ化が電力危機を回避する重要なポイントとなりそうで、当面世界的にインバータ搭載が必須である。そして、さらなる電力消費削減を目指してインバータ性能の向上が必要である。現在、そのインバータの性能向上において脚光を浴びているのが、パワー半導体であり、中でも従来のシリコンに代わる素材である「SiC」(シリコンカーバイド)だ。

 SiC研究者として著名である京都大学教授の木本恒暢氏によると、SiCはこれまでのシリコンを素材とした半導体と比較して、電力損失を大幅に削減でき、高い耐圧を持ち、高熱に耐えうる。このことから、SiCは電源・電力を制御する半導体である「パワー半導体」に最適であり、「SiCパワー半導体」とも呼ばれる。

 「SiCパワー半導体」の先駆者は京都の半導体メーカーであるロームだ。同社のSiCパワーデバイス製造部、伊野和英氏によると、2009年にドイツのSiCウェーハ・メーカー「SiCrystal」社を買収、現在ではSiC半導体の基板から、世界初とされる高効率な「フルSiCモジュール」量産までの一貫生産が出来るという。ロームのSiCパワー半導体は、すでに、各種の産業用機械やプラグイン・ハイブリッド車の充電器など周辺機器、さらには太陽光発電のパワーコンディショナーや各種電源に活用されている。身近な例では、ダイキン工業のエアコンに2011年11月から搭載され、現在(2013年8月)まで累計44万台が出荷されているという。

 今後、世界的な電力危機到来を目前に、「SiCパワー半導体」は世界の工場で働く(動く)産業用ロボットや産業機器、自動車で主流となるプラグインを含むハイブリッド車やEV(電気自動車)とその周辺機器、さらに家電のインバータや電源システムなどで、省エネ化と効率化が期待されている。世界的な需要拡大が予想される「SiCパワー半導体」市場。ロームを筆頭に日本の半導体メーカーのポテンシャルが、その供給と普及の鍵を握っている。(編集担当:吉田恒)