尖閣諸島国有化は「国家戦略の延長線上にある政治決断だった」。野田佳彦前総理が国有化から1年を経て語った。岡田克也前副総理が「国が買うか、都が買うか、ふたつの選択肢しかなかった」と苦渋の選択だったとする見方とまったく視点が違った。積極的購入と追い込まれての購入の違いだ。
野田前総理は国有化について「(当時)石原慎太郎知事が『東京都が買う』と宣言して以来、密かに可能性を探っていた」と追い込まれての選択でなかったことをうかがわせる。「石原発言以来、尖閣周辺での中国の活動が活発になり、尖閣をいかに平穏、かつ安定的に維持管理するかに(問題意識が)あった」というが、それは海洋国家を強く意識する野田氏にとって、国有化への要因でしかなかったのかもしれない。
野田前総理は「昨年8月15日に香港の活動家が尖閣諸島に強行上陸した事件」「8月19日に石原都知事と直接会談したこと」が決断を後押ししたとする。「詳細を語ることは差し控える」と語らないが、結局、岡田前副総理がいうように「石原氏が中国政府に対し極めて挑発的なことを言い、都が買った場合、いろいろな構築物を島に造るということも明言されていた。そういうことになれば日中関係に甚大な影響を及ぼすことは明らかで、国が買うしかない」と強く思わせる言動が、野田・石原会談の中にあったことは想像し易い。野田前総理はこのことで「腹を固めた」。
平穏で安定的な尖閣の維持。そのための国有化。裏腹に国有化以来、中国公船の領海侵入が恒常化しつつある。
歴代政府と同様、安倍政権も「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土。領土・領海・領空はしっかり守る」とし「日中間に領土問題は存在しない」と主張する。
一方で、領海侵入があったときの対応では極力「刺激することを避け」、ことさら「慎重に抗議」を繰り返す。対応は賢者の対応なのだろうが、国有化とともに、その姿勢に対する評価は歴史に委ねられるのだろう。
ただ、目前の問題として、領海侵入が繰り返される状態が続いている。この状態がいつまで続くのか。戦略的互恵関係の姿が2国間の政治レベルでは見えてこない。領海侵入の恒常化は中国にとって「既成事実の構築」であり、日本の実効支配を揺るがせかねない材料になっていくだろう。
野田前総理は「国有化は国家戦略の延長線上」と語った。理由のひとつは海洋資源だ。野田前総理は「レアメタル、レアアース、メタンハイグレードなど、海洋には沢山のお宝の山がある。海洋こそ、日本が資源小国から脱皮するチャンスを秘めている」とし「周辺国も海洋権益に敏感になる」ため「海洋国家として、日本は安全保障・経済政策を推進しなければならない。領土・領海の保全に戦略的に取り組むことが重要なのだ」と強調する。
民主党が「『名無しのゴンベエ』だった遠方離島にも名前をつけてきた」(野田前総理)。海洋国家として戦略的に取り組む姿勢の現われだった。とすれば、野田政権が続いていれば、中国への対応はどのようなものになっていたのだろう。当時の政権与党だった民主党、当時の閣僚、そして現在の自民・公明、政府が立場を超え、尖閣の出口を慎重かつ迅速に探ることが求められている。(編集担当:森高龍二)