安倍晋三自民党総裁はさきの総選挙で政権奪還の際も、奪還後、総理になった際にも「これまでの自民党とは違う」政権を強調した。大企業優先、富裕層厚遇と揶揄された自民党政権から労働者層にまで裾野を広めた立ち位置での政権をうかがわせた。そして、参議院でも圧勝し、国会でのねじれが解消した。ゆえに、これからが本当に立ち位置を忘れることなく、いわば、経団連にも強い要請ができる勇気ある自民政権かどうかが、問われている。その象徴は賃上げだろう。
大企業優先ではないか、その疑問が投げかけられたのが、18日の参議院本会議。消費税引き上げと雇用や派遣労働の規制緩和に絡んでの質疑だ。「消費税増税をすると景気が落ち込む。だから景気を支えるために消費税を充てる。これほど馬鹿げた話はない。景気が落ち込むのが心配なら消費税増税をやめればいいではないか」。
日本共産党の市田忠義書記局長が18日の参議院本会議で安倍晋三総理に迫ったひとコマ。自民に最も対峙する党となった日本共産党は復興特別法人税の前倒し廃止の分も含め、政府の経済対策は6兆円規模だと政府発表分より1兆円上乗せした額を提示し、消費税引き上げの反動に対する経済政策のあり方を「大企業・富裕層優先・優遇の政策」と批判する。
市田氏は『復興特別法人税』は「もともと黒字企業だけにかかるもので、赤字企業にはかからない」とし「総理が今言うべきせりふは『震災復興のために、せめて儲かっている企業は負担能力に応じてきちんと税金を負担してもらいたい。この措置を3年で終わらせないで、もう少し続けてもらいたい』ということではないか」と目の前に座る議員らに共鳴を求めた。共産支持者でなくても、復興特別法人税の1年前倒し廃止には、市田氏の意見にうなずける人も多いのではないか。
安倍総理は「復興特別法人税の1年前倒しは賃金引き上げを前提とするもの」と答弁のたびに強調するが、社員の賃金引き上げにつながるのか、担保するものはない。しかも、現実の給料は15ヶ月連続して前の年の同月を下回る状況だ。
1997年をピークに労働者の平均年収はピーク時から70万円減った。また「働く人の38.2%にあたる2042万人が非正規労働者で、その平均年収は国税庁の調査でも168万円」と市田氏は指摘する。
年金受給者間の格差も広がっている。市田氏は「公的年金受給者の75.6%にあたる2900万人が年収200万円未満の年金しか手にしていない」とした。
こうした中で、消費税が引き上げられる。しかし、その前に、円安の影響から諸物価がすでに値上がりを続けている。「パンが同じ価格で小さくなった」「揚げが少し薄くなった」。主婦の間でこんな声が出る。ガソリン価格や灯油価格の変動に一喜一憂するのが庶民の暮らしであることを政府は忘れてはならない。
市田氏は中小企業経営についても「長期不況で今でさえ消費税を販売価格に転嫁することができず、円安による価格上昇分も転嫁できないで苦しんでいる」と問題提起した。
「税率8%で8兆円。10%になれば13.5兆円という史上最大の新たな負担に耐えられる力がどこにあると考えるか」とも。
賃金が上がる担保がない中で、労働者には追い討ちをかける状況が、国際競争力に勝ち抜く企業の育成と企業が世界一活動しやすい環境づくりを掲げるなかでの労働市場への数々の規制緩和だ。
非正規労働者の増加がブラック企業暗躍の背景のひとつにもなっている。正規社員をめざす若者が企業の期待に応えようと連日の深夜に及ぶ労働やサービス残業にも耐えようとする。
市田氏は「こんな働かせ方の根絶こそ急務だ」と怒った。そして「そんなときに正社員から派遣への置き換えを完全自由化する、日雇い派遣を無制限に復活させる、雇用のルールの治外法権地域・解雇自由のブラック特区の創設などは許されない」と指摘。「こんなことが許されれば日本全体の労働条件の悪化をもたらし、日本のものづくりも、企業経営も、働くすべての人らの生活にも、少子化の克服にも、日本社会の成り立ちそのものにも取り返しのつかない被害をもたらす」と強い懸念を露にした。
市田氏は「空前の大増税で国民から所得を奪い取れば国民の暮らしを破壊するだけでなく、日本経済を奈落の底へ突き落とし、財政危機も増幅させることは1997年の消費税5%への引き上げの経験をみるまでもなく明らかで、それを知っているから、安倍総理は6兆円規模の景気対策を実施するのだ。少なくとも来年4月からの増税は残念すべきだ」と決断を迫った。
あわせて「労働者の賃上げのために法人税を引き下げる必要があると総理は言うが、270兆円の内部留保の一部を賃上げにまわせというべきだ。非正規労働者を減らし、希望者にはみな正社員への道を開くこと、これこそ最も有効な賃上げの道だ」と。
安倍政権が本腰を入れて、賃上げから消費拡大、企業収益の向上、賃上げ、消費拡大という好循環を実現させる気があるなら、日本経団連の提言通りの政策展開との批判や大企業奉仕との批判をかわし、市田氏の言う、大企業の内部留保で賃上げさせる策を並行させる検討も、満更、脱デフレを後押しすることになるかもしれない。従来の自民党政権と違う「経団連にも強い要請ができる自民政権へ」安倍総理の勇気と行動に期待したい。(編集担当:森高龍二)