自販機後進国ロシアに進出する、ダイドーの勝算

2013年12月28日 12:12

 ダイドードリンコ<2590>は先日、2014年1月を目途にロシアのモスクワに飲料自販機の事業管理と飲料の販売を主な業務とする会社「ダイドードリンコ ロシア(正式名称・DyDo DRINCO RUS,LLC)」を全額出資で設立すると明らかにした。初年度の設置台数は500台を予定し、2018年までに1万台まで増設することで約50億円の売り上げを見込んでいる。

 ソ連崩壊後の1993年から20年間、日本で唯一のロシア極東地域の情勢を伝えている週刊誌「ボストーク通信」によると、2011年末時点でのロシアの自動販売機台数は、飲料水以外のものを含めても約7万5千台。対して、日本自動販売機工業会が発表した2012年末の日本での自動販売機の普及台数は約509万台となっており、市場規模としては比べるまでもない。日本の大手メーカーがロシアで清涼飲料を販売するのは、今回が初めてになる。しかしながら、それでもあえてロシア市場の開拓に踏み切った背景には、ダイドーの大きな勝算があるようだ。

 これまでロシアで自動販売機が普及していなかった理由としては、人件費と設置・メンテナンスコストの兼ね合いや、治安の問題などが挙げられる。そして、これまでロシアではキオスクのような仮設式売店が主流だったこともあり、住民の方でもとくに不便は感じていなかったようだ。ところが、2010年秋に景観保護を理由に仮設式売店の取締りが強化されたことで、市場が急速に変化し始めたのだ。さらに、2013年3月には、商業サービス局次長が自販機普及の刺激策を講じる意向を表明し、それに市長も同意したことから、今後、モスクワ市内では自販機が増えていくとみられている。さらに同社が展開を目指すモスクワ市は人口1,100万人の欧州最大都市だ。これまで売店で購入していた顧客が自販機に移行するとなれば、市場規模としては充分だ。

 とはいえ、いくつかの不安要素もある。自販機文化が根付いていないロシアの人たちが、本当に予測通りに移行してくれるのだろうか。しかも、ロシア経済も下降気味といわれているこのタイミングで、当初に見込んだ売り上げを確保できるのだろうか。しかも、驚くべきことに、ただ販売するだけでなく、現地の他社商品より4割高の価格設定で販売するという。

 このような強気な姿勢で進出する根拠はどこにあるのだろうか。ダイドードリンコの担当者に話を聞いたところ、同社が目論む戦略が見えてきた。

 まず、自信の背景には、ロシアでは日本製品に対して信頼が厚いということがある。メイドインジャパンのブランドは、高品質であり、とくに健康志向が高まっているロシアの高所得者層の間では、少々値段が高くても日本の食品が好まれる傾向にあるという。そこで、ダイドーでは、ロシア他都市と比べても所得水準が顕しく高いモスクワの中でも、とくに高所得者層が利用するエリアへ重点的に自販機の設置を検討しているという。

 また、ロシアといえば寒い国というイメージが強いが、意外なことに、カップ式の自販機以外はCold飲料しか販売されていないという。日本ではHot&Coldにしたことで缶コーヒーが一気に売れて自販機が普及したことから、モスクワでもHot&Coldで販売することが付加価値となり、販売価格が若干高くても購入に結びつくと、同社では予測しているようだ。

 防犯の面においても、アウトロケーションだけでなく、オフィスビルや空港、駅などの監視の目があるエリアを中心に展開していく方針を打ち出している。つまり、そういう場所を利用する高所得者層の人がメインターゲットというわけだ。そう考えれば、割高な価格設定すらも、ターゲットである高所得者層に対するブランドイメージを高めるための手段だと納得がいく。

 ともあれ、自販機後進国といわれるロシアの市場で、日本の飲料メーカー・ダイドーの挑戦が始まる。アベノミクスといわれ、少しずつ景気の回復がみられつつも、いまだ不安定な日本の経済情勢の中、このような日本企業のあくなきフロンティア精神には勇気づけられるものがある。数年後には、高所得者層だけでなく、ロシア中でロシアの人たちがダイドーの缶コーヒーを飲んでいる姿が見られることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)