小型のものは携帯電話にも入っている「リチウムイオン電池」。大型のものは電力蓄電施設や航空機、ハイブリッドカー(HV)、電気自動車(EV)にも利用されるが、「1回の充電で長時間走れる」「強いパワーを出せる」「短時間で充電できる」性能向上と低価格化がHV、EVの普及のカギを握ると言われる。富士経済の「電池関連市場実態総調査2013」によると、世界のリチウムイオン電池の市場規模は2011年実績で1兆751億円だった。
しかし、期待の星のリチウムイオン電池の2013年は、その安全性に懸念を抱かせる出来事から始まった。1月16日、全日空<9202>国内線のボーイング787型機が飛行中に煙を出して高松空港に緊急着陸し、その発火の原因は搭載していたGSユアサ<6674>製のリチウムイオン電池と判明した。
しかし翌日の17日には、リチウムイオン電池の寿命を4倍以上に伸ばすアクリル系樹脂の電極用接着剤を開発したダイソー(旧・大阪曹達)<4046>が東京市場で値上がり率1位になっている。2月には東ソー<4042>がリチウムイオン電池の発火を防ぐ新素材を開発したと報じられた。
ところがボーイング787が運航再開に近づいた3月27日、今度は本命の自動車用リチウムイオン電池でただならぬ事態が発生する。三菱自動車<7211>水島工場で完成検査中に充電中の電気自動車(EV)の「アイミーヴ」のバッテリーパックが突然発火し、「アウトランダーPHEV」のリチウムイオン電池も過熱して溶けた。バッテリーパックの製造元はGSユアサ、三菱自動車、三菱商事<8058>が設立したリチウムエナジージャパンという会社で、バッテリーはGSユアサが供給していた。三菱自動車は急きょ販売を停止し、ユーザーに充電をしないように呼びかけている。GSユアサは世界市場でサムスン、LGの韓国勢と激しい競争を演じているのでく、リチウムイオン電池の先行きに暗雲が漂った。4月には旧・三洋電機の事業を継承して2011年まで世界トップシェアだったパナソニック<6752>が、リチウムイオン電池事業で従業員を2割削減するリストラ策を講じている。
それでも自動車業界の期待は失われていなかった。パナソニックとともに電池生産会社に出資したトヨタ自動車<7203>が5月、次世代「プリウス」向けにリチウムイオン電池の増産に入ると伝えられた。続いて6月にはドイツの自動車部品メーカーのボッシュがGSユアサ、三菱商事と、走行距離が従来の2倍に伸びる次世代リチウムイオン電池の開発で提携するというニュースが飛び込んで、電池材料を提供する戸田工業<4100>、チタン工業<4098>も株価が上昇している。
10月には電池事業で早期退職募集まで行ったパナソニックがアメリカのEVメーカーのテスラモーターズにリチウムイオン電池を供給するニュースがあり、11月には東芝<6502>が世界最大級のリチウムイオン電池を実用化し、東北電力<9506>の出力40MWの蓄電池システムを受注。12月には積水化学工業<4204>が、自動車用で蓄電容量3倍、走行距離3倍、コスト6割減になる新材料を開発したと報じられて株価が急騰する一幕もあった。
リチウムイオン電池は、航空機、自動車で相次いだ発火事故を乗り越え、GSユアサ、パナソニック、東芝などの電池メーカー、自動車メーカー、材料を供給する化学メーカーが技術開発を競いあい、着実に前進している。(編集担当:寺尾淳)