2013年9月8日。2020年の夏季オリンピック・パラリンピックの開催地が東京に決定した。東京都と日本オリンピック招致委員会が算出した経済効果は約3兆円。これにインフラ整備や観光産業の活性化、スポーツ人口の増加などの潜在効果を含めると100兆円規模の経済波及効果を期待するという声も挙がっているが、その一方で、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などからは「3兆円の五輪経済効果は楽観的過ぎる」と悲観的な見方もされている。アベノミクス第4の矢とも言われる東京五輪は、果たして期待通りの「五輪特需」をもたらしてくれるのだろうか。
帝国データバンクが昨年10月に全国の企業2万2766社(有効回答企業数1万769社)を対象に、東京五輪に対する企業の見解を調査したところによると、76パーセントの企業が「東京五輪の開催は日本経済に特需をもたらす」と回答しており、経済への好影響を期待していることが分かった。また、33.4パーセントの企業が自社の業績に「プラスの影響」を与えると認識していることも分かった。さらに、64.9パーセントの企業が、日本経済の持続的成長のために東京五輪の開催は「有効」と回答している。五輪開催に否定的な回答の中には、東京に一極集中してしまうことで地方へ赴く観光客の減少や、資材の高騰、物流の混乱などを懸念する声もあるものの、日本の企業は概ね五輪開催を積極的に評価しているようだ。
それを裏付けるかのように、東京五輪開催決定の翌日9月9日の東京株式市場は、インフラ整備を見越した建設や不動産、そして当然ながらスポーツ用品メーカーなどに買い注文が殺到した。とくにスポーツ用品メーカーは軒並み値を上げており、日本選手に公式ウェアやシューズを提供するミズノ<8022>が11.19パーセントの上昇をみせたのをはじめ、アシックス<7936>が5.35パーセント、デサント<8114>も4.62%と大きな伸びをみせている。また、建築関係では、体育館など大張間構造建築のパイオニアとして知られる巴コーポレーションが23.05パーセントの上昇でストップ高をつけたり、スポーツ施設関連でも、スイミングスクールを運営するジェイエスエス<6074>、全国200か所でスポーツクラブを展開するセントラルスポーツ<4801>などが軒並みアップして、年初来高値を更新している。面白いところでは、レスリングの存続を受け、同競技の有力選手である吉田沙保里選手や伊調馨選手を抱えるALSOK<2331>(綜合警備保障)も5.97パーセントの上昇でストップ高をつけ年初来高値を更新した。
スポーツをお金に換算するのは下品かもしれないが、低迷が続いていた日本経済にとって、明るい材料であるのは間違いない。しかも、五輪の他にも2014年はスポーツ関連市場には追い風が吹いている。その一つが、ウェアラブル端末だ。ポストスマートフォントも言われてにわかに注目され始めた、この次世代端末は、スマートフォンやタブレットよりもアクティブに使用できることから、スポーツや健康関連の用途で使われることが多く、今後もその傾向は続くと見られている。すでにナイキの活動量計「NIKE+ FuelBand SE」やサムスンのスマートフォンと連動した「GALAXY Gear」などが市場に出回っているが、今年はいよいよ、ウェアラブル端末の本命と目されるGoogleの「Google Glass」やAppleの「iWatch」も登場しそうだということで、ウェアラブル端末市場が本格的に動き出しそうな気配だ。これが普及すれば、東京五輪に向けて、また新たなスポーツビジネス領域が広がることだろう。
ただし、20年の開催までに解決すべき課題も山積みだ。原発事故の処理をはじめ、震災被災地の復興が立ち遅れることがあってはならないし、老朽化したインフラの整備も早急に行う必要がある。さらには、21年以降の開催終了後のビジョンを作成しておくことも必要だ。(編集担当:藤原伊織)