このところ、娘が母親の存在を語る本や雑誌の特集が目立つ。きっかけは08年に出版された、心理カウンセラーの信田さよ子氏によるベストセラー『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』(春秋社)。この本が女性たちの共感を呼び、「母と娘」問題が社会的にクローズアップされるようになった。
12年には漫画家・ライターの田房永子氏による『母がしんどい』(新人物往来社)がヒットし、婦人公論からは13年、増刊号として『断捨離で「母の呪縛」を解く』が刊行。成人以後も子どもを縛り続ける「毒母」なる言葉も登場した。
こうした問題は、80年代には「母原病」、90年代以降は「アダルトチルドレン」といったキーワードで語られることもあった。「母原病」はある精神科医が提唱したもので、子どもの人格形成におけるひずみを、母親の育て方に求める考え方。当時は不登校や家庭内暴力などが社会問題化しつつあり、そのセンセーショナルな響きは多くの母親に自責の念を抱かせた。
一方の「アダルトチルドレン」は、90年代にアメリカから輸入された概念だ。自らの生きづらさを、母親を含めた「幼少期の家庭の機能不全」に求める考え方で、現代の「毒母」ブームにおける母親像のベースにもなっている。
なぜ今になって「母―娘」問題が取り沙汰されるようになったのか。社会学者の上野千鶴子によれば、少子化や女性の社会進出により、娘に対する母親の期待が大きくなったことが関係しているという(『女たちのサバイバル作戦』文藝春秋)。娘には高い学歴をつけ、男性のように職業での地位達成もしてほしい。加えて結婚や出産など「女としての自己実現」もしてほしい。母親からの二重の期待が、現代女性を苦しめる一因という。
「母―娘」問題は、心理学などの学問分野のみならず社会的な関心を集め、母親を告発する有名人やタレントも目立つ。一方で「父親を告発する息子」がほとんど出てこないのはなぜだろうか。育児における父親の存在感の薄さの現れだろうか。理由はよく分からないが、今後も「毒母」ブームは続きそうだ。(編集担当:北条かや)