衛星放送が日本で初めて一般視聴者向けに放送されたのは、今からおよそ30年ちかく前の1987年5月のことだ。当初は、離島や山間部などのTV放送の難視聴地域に向けて地上波と同じ番組を放送する、いわゆるサイマル放送が主な目的とされていたが、現在ではその他にも、地上波とは異なる番組や、より専門性の高い番組を提供するためのチャンネルが増えており、どちらかといえば、そちらの印象の方が強いのではないだろうか。
しかしながら、世界規模でみてみると、宇宙の静止軌道上から一斉に国内全域に電波を送信できる衛星放送は、国土全体に放送局を設置する必要がある地上波放送に比べると容易に放送を普及させることができるという点で、とくにテレビ放送が普及途中にある発展途上国等にとっては最適な方法と考えられている。さらに半導体技術が進歩したことにより、マイクロ波受信装置が安価で手に入るようになったことから、物価の安い国でも容易に受信機を購入できる時代になっており、東南アジアや中近東をはじめ、北米、インド、アフリカ地域などでも衛星放送の普及が急速に進んでいる。
このような背景の中、日本のローム<6963>グループのラピスセミコンダクタが先日、衛星放送受信アンテナ向け4入力4出力スイッチマトリクスIC「ML7405」を発表して話題になっている。
日本では受信できる衛星が固定されているが、欧州や南米などの地域では、近隣他国も含めて周波数、偏波の異なる4種類の衛星放送から放送を選択し、受信可能なため、4種類の衛星放送を1台で受信するユニバーサルモデルと呼ばれる衛星放送受信アンテナが使用されている。4種類の衛星放送を全て同時に受信、録画するためには4出力以上のユニバーサルクアッド衛星放送受信アンテナが必要となるが、4入力4出力スイッチICはIC内の素子、配線が増えるため、素子間、配線間の結合による信号のクロストークの問題を解決することが難しかった。そのため、従来の受信アンテナに使用されるスイッチICは4入力2出力のものしかなく、4入力2出力スイッチICを2個並列に接続して対応していた。
今回、ラピスセミコンダクタが発表した製品は、世界で初めて4入力4出力スイッチ回路を1チップで実現したもので、従来の4入力2出力スイッチICを2個使用した場合の課題であった配線の損失や配線間のクロストークを解消するだけでなく、実装面積を60%削減できることなどから、ユニバーサルクアッド衛星放送受信アンテナを容易に設計、製造することができるため、同アンテナの普及に大きく貢献することが期待される。
日本ではリモコン一つでテレビ番組を見られるのは当たり前だが、世界規模でみると、これからまだまだ発展していく余地のある分野だ。日本の優れた技術が大きなビジネスチャンスを切り拓くかもしれない。(編集担当:藤原伊織)