二つのことを同時にしようとすると、どちらも半端になる脳の仕組みを解明

2014年03月18日 02:57

 二つのことを同時にしようとした時、うまくいかなかったり余計に時間がかかったりなど、結局どちらも中途半端になってしまった経験はないだろうか。こうした現象が起こる脳の仕組みを、京都大学こころの未来研究センターの船橋新太郎教授と渡邉慶オックスフォード大学研究員が解明した。研究成果は認知機能の解明や、自閉症、統合失調症などの原因究明に役立つことが期待される。

 二つの課題を同時に行おうとすると、エラーが増えたり、反応時間が長くなったりする現象は二重課題干渉と呼ばれ、ヒトでよく知られている現象だ。「注意」「記憶」「思考」など、いわゆる認知機能を実行するために使われる脳の限られた場所(資源またはリソース)を、二つの課題が取り合うために起こると説明されることが多いが、その具体的な仕組みは明らかにはなっていない。

 また、ヒトを対象にしたこれまでの脳機能イメージング研究で、二重課題干渉は前頭連合野の外側部の働きと関係のあることが明らかにされているが、この時に前頭連合野の外側部でどのようなことが起こっているのかは、明らかにはなっていないという。

 研究グループでは長年にわたってサルを用いて前頭連合野の機能を研究し続けてきた。サルに、視覚刺激が現れた場所の記憶を行わせると、記憶の必要な期間、前頭連合野の神経細胞が持続的に活動する。この持続的活動は記憶関連活動としてよく知られている。

 この記憶関連活動の特徴を利用して、研究グループは二重課題干渉の起こる仕組みの解明を試みた。研究では、サルに、視覚刺激が現れた場所を記憶させると同時に、別の場所への注意の維持を行わせることで、サルでも二重課題干渉(記憶の成績の低下)が観察されることを確認した。その後、この干渉に関わると考えられている前頭連合野外側部の神経活動のより詳しい分析を行った。

 その結果、二重課題干渉は、二つの異なる課題の各々が、前頭連合野の共通する神経細胞集団(資源)を同時に、かつ、過剰に動員しようとするが、資源が限られているためお互いが干渉しあい、他方の活動を制限してしまうことにより生じることが明らかになった。

 船橋教授は「二重課題干渉の仕組みの解明は、日常場面で同時に直面するさまざまな問題の解決や判断、意思決定がどのようにして行われているのかという問いの解明に直結する。このメカニズムは私たちが行っているさまざまな認知機能の解明に不可欠であると同時に、自閉症や統合失調症などの原因究明にも役立つと考えている」とコメントしている。あれもこれも、忙しい現代人には一気に片づけたい仕事が山積みだが、一番効率が良い方法は、やはり一つひとつを確実に行っていくということなのだろうか。(編集担当:横井楓)