視覚情報を脳に伝える第3の神経経路を発見 

2014年03月24日 23:08

 シドニー大学のパーシバル・くみ子研究員のグループと自然科学研究機構 生理学研究所および同機構 研究力強化推進本部の小泉周特任教授は20日、新世界サル(マーモセット)の網膜から脳の視床に視覚情報を送る「第3」の神経経路を発見したと発表した。

 これまで霊長類では、二つの経路(視床のM層経由型とP層経由型)が目で見た画像をそのまま脳に伝えていると、とらえられてきた。新しい経路は、視床のK1層を経由し視覚情報の中でも特に動きの情報を検出している可能性があるという。

 研究グループは、哺乳類の中でもヒトに近い視覚系をもつ霊長類(新世界サル(マーモセット))の網膜に注目。小泉氏らは、マーモセット網膜への遺伝子導入法を開発し、これまであまり研究されていなかった霊長類の網膜に数少なく存在する神経細胞の可視化に成功した。

 この手法および視床の特定の領域に色素を注入する方法を用いて、網膜から視床の特殊な層(K1層)へと情報を伝える、複数の神経細胞のつながりを調べた。その結果、網膜内のDB6双極細胞が網膜の狭棘状細胞(ナロー・ソニー神経節細胞)という神経細胞につながり、狭棘状細胞がK1層へ情報を送っていることが分かったという。

 K1層には、視覚情報のうち「動き」に反応する細胞が多く存在すること、K1層の情報が「動き」の情報処理を行うMT野にも直接情報を伝えていることから、今回発見した経路は、「動き」の検出に特化した神経経路であることが示唆されたとしている。

 小泉特任教授は「今回発見した“動き”の検出に関与する神経経路が、目が見えない方のブライドサイト(見えていると意識しないのに、ある種の情報が脳には直接送られている)と呼ばれるような能力に関与しているものと考えられます」とコメントしている。

 同グループはこの成果を米国神経科学会雑誌「ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス 2014年3月12日号」に報告した。この研究で、これまで単純なカメラのフィルムとして考えられていた我々人間を含む霊長類の網膜でも、特殊な情報処理をするための情報処理経路があることが明らかになった。前述したようにブライドサイトのような特殊な能力に関与しているとなれば、目の不自由な方にとって有益な技術の開発につながる発見と言える。(編集担当:慶尾六郎)