順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学の神谷和作講師ら研究チームは、遺伝性難聴の最大の原因であるGJB2(コネキシン26遺伝子)変異による難聴の原因メカニズムを明らかにした。研究成果を生かして、遺伝性難聴の新たな治療方針、創薬研究が前進することや、コネキシン遺伝子の変異に起因する他の難治性疾患として、心疾患や眼疾患、皮膚疾患などの治療への応用も期待できる。
研究は理化学研究所バイオリソースセンター、がん研究所、ペンシルバニア大学との共同研究によるもの。
今回、研究チームは、重度の感音性難聴を示す遺伝性難聴のモデルとなるコネキシン26遺伝子改変マウスを開発し、内耳の細胞間のイオン輸送を担うギャップ結合プラークと呼ばれるタンパク質複合体の役割を調べた。
これらのマウスでは、コネキシン26遺伝子の変異によりギャップ結合の集合体が分断され、機能を補完するはずの他のコネキシンの量も33%程度にまで減少していた。これにより内耳のイオン輸送ができなくなり、音の振動を神経の電気信号に変換する内耳リンパ液の組成が異常になるために聴力が低下すると考えられる。
従来、内耳には同じ機能を持つ他のコネキシンも豊富に存在するため、なぜコネキシン26だけの変異で重度の難聴になるかはわかっていなかった。しかし今回の研究成果により、通常はギャップ結合プラークを集積・安定化させているコネキシン26の異常や欠損が、ギャップ結合の複合体全体を崩壊させるという新たな様式がわかった。
現在のところ、この遺伝性難聴に対する根本的な治療法は存在しない。しかし今回、患者が持つ遺伝子変異による異常ギャップ結合がヒト培養細胞においても容易に再現して健常者のものと比較できることが分かった。これを新薬の有効性判定に活用すれば、今まで判定基準のなかった薬剤スクリーニングが可能になると考えられる。
この結果は、内耳におけるギャップ結合の機能を回復させる難聴の新しい治療方針と創薬研究に役立つことができるほか、コネキシン遺伝子の変異に起因する他の難治性疾患、例えば、心疾患、眼疾患、皮膚疾患への原因の解明と治療への応用も期待できるという。(編集担当:横井楓)