福島第一原発事故後、国民の放射能への危険意識が高まっている。そして、直接口にする農畜水産物といった食品などの放射性セシウムを計測するニーズも高まっている。しかし、一般に使用されている核種分析能力の高いゲルマニウム半導体検出器は高価であるほか、液体窒素による冷却が必要なため運用の手間や費用もかかる。このため、測定の迅速化と装置の低価格化が求められている。
これを受け、三菱電機<6503>の先端技術総合研究所の西沢博志主席研究員と九州大学大学院総合理工学研究院の渡辺幸信教授らの開発チームは、JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、食品などに含まれる放射性核種を短時間に測定し、同時に低価格化を実現する放射能分析装置を開発した。
今回、開発チームは、ヨウ化ナトリウムシンチレーターに信号復元技術を適用した放射能分析装置を開発した。放射能を分析するためには放射線のエネルギーを正確に識別することが必要だ。従来不十分だったヨウ化ナトリウムシンチレーターのエネルギー識別性能を高めるため、放射線のエネルギーに応じた検出器の物理特性の違いを利用して、放射線のエネルギーを正確に復元する手法を新たに開発した。
この手法により、食品中の放射性セシウム134、セシウム137からの放射線や自然放射線を高精度に識別し、短時間で放射能濃度を測定することを可能とした。例えば、2kgの一般食品の場合、検出下限25ベクレル/kgを1分で測定できる。これは、従来の一般的なゲルマニウム半導体検出器に比べて約10分の1にあたる。さらに装置の価格も低価格に抑えられる。従来のゲルマニウム半導体検出器の装置価格は1500万円~2000万円するが、新開発の装置は500万円以下になるという。
開発した放射能分析装置は、14年4月よりプロトタイプの実証試験を被災地(福島県)にて開始する。製品発売は14年度中を予定。また、検査試料の準備作業にかかる負担を減らすために、少量試料(数百ml)での測定にも対応できるようにするなどの改良開発を同時に進めるとしている。(編集担当:慶尾六郎)