大規模量子コンピュータ実現間近 NTTらが長寿命量子メモリ構築の新技術開発

2014年04月13日 23:17

 日本電信電話<9432>(NTT)と大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)、国立大学法人 大阪大学は8日、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド量子メモリを組み合わせたハイブリッド系において、長い寿命を持つ隠れた量子状態(ダーク状態)が発現するメカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。
 
 この研究は、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援プログラムの支援により行われている。また、研究の成果の一部は独立行政法人情報通信研究機構からの委託研究「量子もつれ中継技術の研究開発」により得られたもの。

 今回の結果は、保持時間の長い量子メモリを構成する新しいアプローチとして応用できる。このため、大規模量子コンピュータに必要となるリソースの大幅な削減と、それに伴う開発コストの低減とにつながることが期待される。そのため、高速の量子情報処理の実現に向けたブレークスルーとなる可能性を有しているという。

 量子コンピュータとは、従来のコンピュータに比べ大規模な並列処理ができるため、次世代のコンピュータとして実用化が望まれている。そして、量子ビットとはこの量子コンピュータを構成する基本要素だ。制御が可能で、超寿命な量子ビットを実現するために、2つの異なる系をハイブリッド化する研究が盛んに行われている。

 NTT、NII、大阪大学の研究チームでは、高い制御性を持つため量子プロセッサとして使用可能な「超伝導磁束量子ビット」と、潜在的には長い寿命を持つと期待される「ダイヤモンド量子メモリ」を組み合わせたハイブリッド系の実現に11年に成功した。しかし、ハイブリッド系にした際に、ダイヤモンド量子メモリの寿命が十分に延びておらず、その長寿命化が課題だった。

 また、ハイブリッド系にすることにより、超伝導磁束量子ビットやダイヤモンド量子メモリ単体では観測されていなかった「長寿命状態」が観測されることが知られていた。しかし、この長寿命状態が発現するメカニズムが不明のため、量子メモリとしての活用ができなかった。もしこの状態の活用ができれば、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンドの間の結合を弱めることなく長寿命量子メモリが実現できる可能性があるため、その起源の解明が求められていた。

 今回、同研究チームは、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド量子メモリを結合したハイブリッド系で、量子メモリ実現のために重要となる「長寿命のダーク状態」の発現するメカニズムを世界で初めて解明した。ダーク状態とは量子力学的干渉性のためにその系から発する信号が打ち消されてしまい、実験的に検出のできない「隠れた状態」を意味する。このようなダーク状態は一般に長寿命であることが知られているものの、実験的に検出ができないため、量子情報への活用は難しいと考えられている。

 そこで、研究チームは、超伝導磁束量子ビット・ダイヤモンド量子メモリのハイブリッド系においては、結晶の歪みや磁場ノイズのために干渉が完全には働かず、ダーク状態由来の信号が検出可能であることを理論的に示した。そして実際にその信号を実験的に補足し、量子状態の寿命が、従来のハイブリッド系の量子メモリでは、20nsだったものが、ダーク状態では150nsまで長くなることを示した。

 今後はこのダーク状態を用いて、実際に量子メモリ動作が可能であることを実験的に実証する。さらに、複数の超伝導磁束量子ビットを互いに結合させ、全ての超伝導磁束量子ビット上に電子スピン集団から構成される量子メモリを搭載している集積化量子回路の構築を目指す。(編集担当:慶尾六郎)