第一生命保険<8750>は、米中堅生保・プロテクティブ生命を57億ドルで買収し完全子会社にすると発表した。国内生保による海外企業の合併・買収(M&A)では最大規模となる。人口減少で国内の保険市場は縮小が避けられず、生保各社は人口増加が期待できる海外に活路を求めざるを得ないことが浮き彫りになった。この買収は2つの面で大きな意味を持っている。ひとつはアジアの新興国ではなく、米国への進出であったこと。そして、巨額の資金調達には株式会社化が不可欠であることだ。
生保各社は、少子高齢化に伴い国内でのマーケットが小さくなっていく傾向にあるため、海外への進出が持続的な成長の鍵であるとしていた。生命保険がまだ浸透しておらず、社会のインフラとして「保険」の機能が不十分な地域、そして今後の経済発展が見込める国々へ進出することで、生命保険がその国に根付き、経済成長とともに拡大していくことが海外進出の意義としてきた。とりわけ、人口が多く、今後の成長が見込めるアジアマーケットは、新しい需要の掘り起こしが期待できる、生命保険業界にとって大変魅力的な市場とされてきた。第一生命も、2007年にはベトナムで地元生保を買収し、営業を開始するなど、アジア地域での営業力強化に注力していた。
今回は保険先進国である米国企業の買収により、同社の海外戦略は明らかにこれまでとは異なった次元に突入したと考えられる。これにより、収益源が多様化し収益に貢献してくるだろう。今後は他の大手生保各社も海外進出を急ぐ決断を迫られると同時に、生保の海外進出はグローバル経営の能力が問われることになりそうだ。
第一生命は10年にいち早く株式会社に移行。業界首位の日本生命保険など多くの大手生保との違いは、会社形態にある。大半の生保が保険契約者への利益還元を最優先する相互会社なのに対し、第一生命は株式会社に移行し、東証1部への上場も果たした。株主の厳しい視線に晒されることになった反面、巨額の資金を市場から調達する直接金融の道が開けた。今回の買収に必要な巨額の資金の一部は公募増資で賄うことになりそうだ。相互会社では手許の余裕資金を買収資金に充てるのが常識なので債券発行などを通じて資金を集めることには慎重にならざるを得ない。この点からも大型M&Aには株式会社化が必要条件となり、同社はこの分野でもパイオニアとなった。(編集担当:久保田雄城)