iPSの新たな可能性 難病ALS治療に光明

2014年07月02日 07:45

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気をご存じだろうか。ALSは運動神経細胞が正しく機能しなくなり、筋肉が動かせなくなる進行性の難病だ。難病情報センターによれば、1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり約1~2.5人。全国では、特定疾患医療受給者数から見ると約9000人がこの病気を患っているという。海外では英国のスティーブン・ホーキング博士が患っている病気といえばお分かりだろうか。

 ALSの治療を目指した研究には大きく分けて二つの戦略があるという。一つはALSの病態を再現してその病態を改善する治療薬を見つける研究、もう一つはALSになって上手く働かなくなってしまった運動神経細胞を、細胞移植によって補い再生させる研究だ。

 今回、京都大学の井上治久 iPS細胞研究所(CiRA)教授、近藤孝之 同研究員らの研究グループは、山中伸弥 同教授/同所長、高橋良輔 医学研究科教授、岡野栄之 慶應義塾大学医学部教授(生理学)、中村雅也 同准教授(整形外科学)らのグループとともに、ALSのモデルマウスにヒトiPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞を移植することで、ALSマウスの生存期間を延長する効果があることを見出したと発表した。この成果は、今後ヒトiPS細胞を使うALSの細胞移植治療の可能性を示しているという。

 今回は、ヒトiPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞を筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスに移植することでマウスの生存期間が延長した。また、移植細胞は多くがアストロサイトに分化し、神経栄養因子を増加させ脊髄環境を改善した。ALSの治療にiPS細胞が細胞源として有用である可能性が示された。

 同グループによれば、グリア系の細胞とは神経細胞の周りの環境を整える機能をもっている細胞のこと。つまり、本来機能させるべき運動神経細胞を花に例えると、その花を咲かせるために必要な栄養分を供給する土の役割をする細胞だという。しかし枯れてしまいつつある花を新たに植え直すこと、すなわち失われた運動神経細胞の再生は非常に難しいのが現状だ。

 ALSは運動神経細胞が変性してしまうことで、次第に筋肉が動かせなくなる疾患。ALSのうち9割は孤発性で、残りの1割程度が遺伝性と言われている。遺伝性のうち、20%がSOD1という遺伝子が変異していることが知られている。変異したSOD1遺伝子をもつマウスやラットでは、ヒトのALSと同じような症状が見られ、ALSモデルとして使われてきた。

 これまで、このALSモデルマウスに、マウスおよびヒト胎児由来の神経前駆細胞を移植することで、運動神経細胞の変性や病態の進行が緩和することが知られていたが、臨床の現場にこの成果を応用するためには、持続的に供給が可能であるヒトの細胞で研究を行う必要があったという。

 そこで、同研究グループは、ヒトiPS細胞からグリア系神経前駆細胞を誘導し、それをALSマウスモデルの腰髄に移植したところ、移植された細胞はアストロサイトへと分化し、移植されたマウスのグループの生存期間は移植されていないマウスと比べて長くなった。また、移植された細胞は、神経栄養因子の増加により脊髄環境を改善することが示唆された。この結果は、ヒトiPS細胞を使うALSの細胞移植治療の可能性を示しているとしている。(編集担当:慶尾六郎)