ドイツが財政再建に成功した最大の原動力は欧州で「一人勝ち」ともいえるほどの好景気だ。グローバル化への対応に成功したドイツ企業の輸出は好調だ。しかし欧州全体を見渡せば南欧、特にギリシャとキプロスは財政再建に四苦八苦している。
「黒いゼロ」。ドイツのショイブレ財務相は2015年予算案をそう呼んだ。ドイツは15年に財政均衡を実現し、赤字国債の発行を46年ぶりに停止する見通しとなったのだ。今月2日に閣議決定した予算案では好景気で税収が膨らんで財政赤字が消滅。借金をしなくても歳出が賄える状態になる。1969年以来、実に46年ぶりに借金をせずに予算を組んだ。「数字的には財政均衡だが、実質的には黒字」。そんな意味合いが「黒いゼロ」という言葉に込められている。
閣議に提出された16~18年の中期財政計画も財政均衡が続くシナリオが描かれている。赤字国債は今年に65億ユーロを発行するのを最後に、姿を消す。ユーロ圏は財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内にする必要があるが、それをはるかに下回る。過去に借り入れた債務の返済も進める。直近まで80%を超えていたGDP比の債務残高は17年に70%を割り込む。
我が国の財務省によれば、主要国における14年の財政収支の国際比較(対GDP比)は、日本▲7.6%、米国▲6.7%、英国▲5.9%、そしてドイツは0.2%と唯一プラスだ。債務残高のGDPにおいても日本231.9%、米国106.3%、英国110.0%、ドイツ83.4%と、その健全性は他国を圧倒する。
ドイツが財政再建に成功した最大の原動力は欧州で「一人勝ち」ともいえるほどの好景気だ。グローバル化への対応に成功したドイツ企業の輸出は好調で、上場企業の利益水準は20年間で6倍に膨らんだ。
そして、7月のメルケル首相の訪中に合わせて、ドイツ経済界は政経一体の対中国戦略を強めている。首相の訪中には、ドイツ銀行やシーメンス、ルフトハンザ・ドイツ航空、エアバスなど大手企業の幹部も同行。エアバスが100機のヘリコプターを販売する契約を結ぶなど、李克強首相との首脳会談を通じて多数の経済協力や大型商談をまとめた。
だが欧州を見渡せば南欧は財政再建に四苦八苦している。特にギリシャとキプロスは厳しく、30年の債務残高はGDPの2倍を超えるとの試算もある。債務危機を誘発した南北格差という構造問題は解決されずに残る。国が強くなれば他国からの要求はどんどんと増え、それをすべて完璧にはこなせず、結局は周辺国から嫌われてしまう。歴史はこれを繰り返してきた。財政再建に成功したドイツは今後どのような歴史を刻むことになるだろう。(編集担当:久保田雄城)