日本の農業や農協をめぐる環境は大きく変化した。農協はもはや農業関係者のためのみの存在ではなくなっている。あまりに巨大な金融機関へと変貌を遂げてしまった。その収益の中心である金融事業を縮小する痛みに耐える覚悟が問われる。
全国に703ある農協は組合員の農家や会社員の准組合員を対象に住宅ローンや自動車ローンの貸し出し、貯金など民間銀行同様のサービスを提供している。農協は住宅ローンでも、貯金でも地域金融機関のライバルとして激しい競合を繰り広げているのが現状だ。先日、農林水産省は農協の金融事業を上部団体である農林中央金庫や信用農業協同組合連合会(信連)に譲渡し金融事業からの撤退を促すことにした。
農協は主に5つの分野で多岐にわたる事業を展開している。組合員の農業経営の改善や生活向上のための指導事業。農産物の集荷・販売や生産資材の供給を行う経済事業(販売・購買事業)。生命共済や自動車共済などを扱う共済事業。貯金やローンなどの金融サービスを提供する信用事業。地域の医療や福祉に貢献する厚生事業だ。しかし、農家の高齢化でどの農協も農業事業の採算は厳しく、その赤字を補っているのが住宅ローンや貯金の金融事業だ。
日本の農業や農協をめぐる環境の変化を受け、農協は経営の合理化や合併を進めてきた。それは金融事業への選択と集中を推し進めてきたと言っても過言ではない。農協・農林中央金庫・信連はJAバンクを構成し貯金95兆円、ローン10兆円を目標に掲げる巨大金融グループを構成するに至っている。2014年3月末の地方銀行64行の総預金量は235兆円、JAバンクの貯金量は89兆6916億円だ。
政府は今年6月に農協改革案をまとめた。改革案は農協、農業生産法人、農業委員会の3つが焦点だ。JAグループの指導的立場を担う全国農業協同組合中央会(農協全中)の経営指導権などをなくし、農協が農業振興に向けた独自施策を打ち出せるようにする方針を示した。政府は農協が現在のように金融事業に軸足を置いたままでは、本業に取り組む腰が定まらないとみている。農協全中は、農協法で地域農協を指導する権限が認められているが、地域ごとで強みのある農産物や販路は異なる。農協全中の画一的な経営指導をなくして、地域の特色を生かした農業に育てることが求められている。
主に農業で生計を立てる「基幹的農業従事者」の平均年齢は66.5歳。彼らが日本の農業を変革し、世界のマーケットで生き残っていけるのだろうか。地方の農業地域に地盤がある自民党などからの反発も予想され調整は難航しそうだ。何より、これだけ巨大化してしまった農協の金融事業を縮小する副作用は予想することも困難だ。改革には痛みが伴う。それを乗り越える覚悟が問われる。(編集担当:久保田雄城)