先月、「和民」などを展開する外食大手ワタミグループの子会社「ワタミファーム」が千葉県富里市で農地を取得することになったと発表した。農地売買等を監視する同市の農業委員会から1,500坪(0.5ヘクタール)の農地取得の承認を6月23日に得たことで、これまでも自ら農場を開設し千葉県内で有機農業を展開してきたワタミグループが首都圏で初めて農地を農家から買い取ることとなる。この農場はワタミグループの食材供給拠点としてレタス類、大根・人参の根菜を同社に供給する予定だ。
今回のワタミグループのような企業の農業参入は90年代から行われてきたが、ここ数年は特に大規模な参入が相次いでいる。イトーヨーカ堂は08年8月千葉県富里市に農業生産法人を設立し、イオンは09年7月に茨城県牛久市に農場を開場している。牛久市では「白木屋」「魚民」などを展開するモンテローザも08年に農地を借り受け、10年には農薬や化学肥料などに頼らない農産物であることを示す有機JAS指定を取得するなど本格的な有機農業を進めている。このような企業の農業参入が進んでいる背景には、「有機」「国産」といった商品の差別化に役立つだけでなく、「環境・文化などを大切にする」という企業のブランドイメージにも役立てたい思惑があることは想像に難くない。
これまで企業の農業参入は、農地の借り上げという形でしか許可されていなかった。今回ワタミが実施した農地の取得も、子会社の農業生産法人であるワタミファームを通じて行ったものだ。しかし、農業生産法人は「農業の売上高が半分以上であること」や「役員の半分以上が農業の常時従事者であること」などの要件がある上、企業の出資も25%以下に制限されるなど厳しい制限が課せられていた。
この制限を緩和しようとしているのが、安倍政権が現在進めている農政改革だ。たとえば企業の農業生産法人への出資規制は50%に緩和される予定だ。政府はこれにより、家族経営の農家を想定している農業生産法人の性格が大きく変わり、民間企業の農業分野への参入が拡大することを見込んでいる。高齢化やそれに伴う耕作放棄地の増加によって、これまでのような家族経営の農家を農協がまとめる「家族農業」システムが壁に直面していることは明らかである以上、「企業農業」への転換を進めることは必要不可欠だ。農業を成長産業にするという言葉を、安倍政権が撤回せぬよう期待したい。(編集担当:久保田雄城)