VWが本社を構えるドイツ・ヴォルフスブルク。高くそびえ建つガラス張りの塔「Auto Turm」の中には、納車を待つ新車約800台が保管されている。不屈の「メルケル」と「ゴルフ」は世界首位の座を射程に捉えつつある。
2014年1~6月の自動車販売実績が7月30日に出そろった。トヨタ自動車<7203>の世界販売台数が初めて500万台を超え、3年連続で上半期・首位を堅持した。しかし、注目すべきは独フォルクスワーゲン(VW)の躍進だ。VWは米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて2位に浮上、トヨタとの差を10万台強に縮め、首位をうかがう。
日本は「ジャスト・イン・タイム」に象徴されるトヨタの生産革新により「メード・イン・ジャパン」の評価を世界で高めた。一方のドイツは日本の台頭に苦しむことになる。自動車産業はコスト競争力で日本に及ばなくなった。それでも、ドイツは逆境に復活の糸口を学んだ。周囲がドイツを「欧州の病人」と揶揄(やゆ)する中、トヨタ生産方式など日本の競争力を分析し、自己流にアレンジして導入を進めてきた。市場のグローバル化を予見し、その戦いに勝つために、ゲームのルールを変えるイノベーションを準備してきた。そのドイツの底力が開花しつつある。
13年にはVWの新型「ゴルフ」が「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。同賞34年の歴史で、日本の自動車メーカーを押しのけて輸入車が受賞するのは初めてだ。日本カー・オブ・ザ・イヤーの受賞理由には、「MQB」というモジュールによる新たな開発手法を採用が真っ先に挙げられた。「MQB」とは、クルマの各機能や部位を構成する部品の集まりを「モジュール」と定義し、そのモジュールをブロックのように組み合わせてクルマを作る手法のこと。世界最大の自動車メーカーになることを目指すVWが、切り札としてグループを挙げて推進している。
トヨタを追うVWにとってゴルフは極めて重要なモデルだ。VWはゴルフを武器に自動車業界の競争ルールを変える「ゲーム・チェンジャー」になろうとしている。このゲームに勝つために「MQB」というドイツ流モノ作りの切り札をゴルフに詰め込んだ。
7月、ドイツのメルケル首相の訪中にあわせて、VWは天津市と山東省青島に工場を新設すると発表した。投資額はあわせて20億ユーロ(約2800億円)という巨大プロジェクトだ。日中関係が冷え込んでいる間にドイツは中国で積極投資を行い、世界首位を射程に捉えようとしている。「メルケル」と「ゴルフ」、ともに勢いに乗るドイツの象徴だ。(編集担当:久保田雄城)