京都大学やロームがオール京都体制で挑む、半導体開発事業とは

2014年08月30日 20:07

ローム-1

半導体のロームは、世界初のフルSiCパワーモジュールの量産体制を確立した。従来のシリコン製IGBTモジュールと比較し、スイッチング損失を80%以上の低減を実現する。

 省エネルギーに対する取組みは今、多様化の時代を迎えている。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを利用することによって、化石燃料を使わずにCO2の排出量を限りなく抑えるクリーンな創エネがもてはやされる一方で、スマートメーター等の通信・制御機能を活用したスマートグリッドや、急速に普及が広がるホーム・エネルギー・マネジメント・システムのHEMSなど、エネルギーを賢くコントロールする方法も日進月歩の進化を遂げている。

 どのような方法で省エネにアプローチするにしても、必要不可欠なのが電力の変換という作業だ。発電してから家庭に届くまで50%近くが失われていると言われる電力の省エネを実現するためには、より電力損失の少ない高効率な方法を用いて電力の変換作業を行う必要がある。そして、その肝となるのが半導体、パワーデバイスだ。パワーデバイスとは、インバーターやコンバーターなどの電力変換器に用いられ、電力の変換や制御を行う半導体のことで、ICに比べ高耐圧・大電流を制御することができるものをいう。自動車や鉄道車両、産業機器などの大型機器類をはじめ、生活家電などの身近なものに至るまで、あらゆるところに適用されている。

 これまでパワーデバイスの主流はシリコンを材料にしたSiパワーデバイスだったが、2010年前後からSiパワーデバイスの性能を大きく上回る、炭化ケイ素を用いたSiCパワーデバイスや窒化ガリウムを用いたGaNパワーデバイスなどが次世代の技術として注目され始めた。中でもSiCパワーデバイスは、すでに商用化も進み、次世代ではなく当代の中核を成すキーテクノロジーになりつつある。

 SiCパワーデバイスの強みは何と言っても電力損失の少なさだ。従来のSiパワーデバイスと比較して、およそ1/100といわれており、省エネに大きく貢献する。では、何故これまで普及しなかったのだろうか。それは、材料となる炭化ケイ素(SiC)の扱い難さにある。炭化ケイ素はダイヤモンドに次ぐ硬い材料であるため加工が困難で、良質な結晶を作る手段がなかった。そのため、電力損失で劣っても、比較的簡単に加工できるシリコン材料のSiパワーデバイスが主流となっていったのだ。

 多くの研究者がSiCパワーデバイスの開発を諦めていく中、京都大学の松波弘之名誉教授らの研究チームが粘り強く研究を続け、さらには同じく京都の半導体企業であるローム<6963>や三菱電機<6503>、東京エレクトロン<8035>、住友電気工業<5802>と共同研究を通して、実用化技術を研磨研鑽してきた。また、京都大学の木本恒暢教授が世界最先端の成果を出すなど、この分野で日本は強いアドバンテージを持っており、日本のエレクトロニクス産業復興のための救世主になるのではないかと期待されている。

 そんな中、京都大学やロームをはじめ、京都の産官学が一体となって、次世代半導体の開発・普及を加速させるための「京都地域スーパークラスタープログラム」が発足した。これは2017年度まで、独立行政法人科学技術振興機構から毎年4億円の補助金を受け、SiCパワーデバイスやその搭載機器の実用化を目指していくものだ。「産」では、ロームだけでなく、京セラ<6971>や村田製作所<6981>などの半導体・電子部品大手や、オムロン<6645>、島津製作所<7701>など京都を地盤とする電機機器メーカー、「学」では同志社大学や立命館大、そして「官」として、京都市、京都府も加わり、オール京都体制で開発に臨む。

 実用化と普及のネックとなるのは、Siパワーデバイスより高いといわれるコストだ。しかし、仮にすべての機器類がSiCに置き換われば、その節電効果はなんと原発3基分以上ともいわれているので、コストをかける価値も充分ある。世界的にも期待が寄せられている分野であるだけに、省エネ効果はもちろん、日本のエレクトロニクス産業、ひいては日本経済復興のためにも「京都地域スーパークラスタープログラム」には大きな成果を期待したい。(編集担当:藤原伊織)