「技術で勝利するも、ビジネスで負ける」日本に成長戦略はあるのか?

2014年09月06日 14:12

Japan_Technology

世界に冠たるトヨタ自動車の生産ラインでは、高級セダンのクラウンとミニバンのエスティマなど混合車種が同じラインを流れる。これは日本のトヨタが開発した技術だ

 毎年1月にスイス東部のリゾート地で開催する年次総会、「ダボス会議」で知られるスイスの経済研究機関「世界経済フォーラム(WEF)」は先般、世界の国・地域の国際競争力を順位にした2014年版の報告書を発表した。

 WEFでは、国際競争力を「国家の生産力レベル」と定義しており、今回の報告によると、日本は昨年の9位から順位を3つアップさせ6位となった。首位は6年連続でスイス。2位シンガポール、米国は3位だった。これにフィンランド、ドイツが続く。

 WEFは、比較的長く続いている現在の安倍政権の「政治の安定」が順位を3ランク上げた要因のひとつだと説明している。これまで日本は、小泉首相退任以降、首相の交代が頻繁で、政府政策が不安定であることが日本経済の懸念材料とされていた。しかしながら、“安倍政権が安定している”と海外陣営が見るのは勝手だが、国内では“安倍・自民党の暴走”とみる向きも党内にもある。

 安倍政権を最悪視する理由は、前述のように日本はビジネス環境や技術革新の分野で高い競争力を維持しているものの、WEFの調査項目のひとつである「政府債務」おいて、143カ国・地域の中で最下位だったという事実があるからだ。

 ところで、天然資源を持たない日本にとって、「科学技術立国」は国にとっての必須の命といっていい。ならば、その泉源となる基本的な技術力は、世界の国々のなかでどのぐらいの位置にあるのだろう。

 国の科学技術開発力の水準を表す指標のひとつに、政府や民間企業が投入する研究開発費の総支出や研究員数がある。文部科学省が発表した「科学技術要覧(2013年版)」に掲載されている「世界主要国の研究開発費の比較(2011年IMF為替レート換算)」によると、日本の開発費は17兆4000億円に達しており、米国(33兆1000億円)次ぐ2位だ。これに中国、ドイツ、フランスが続いている。研究者の総数は、米国、中国に次いで日本は3位。しかし、人口1万人当たりの研究者数では、日本が66.2人でトップとなっている。2位は韓国の58.0人で、米国、英国、ドイツと続く。

 また、国の科学技術の水準を表す指標として、新製品などに投入された新技術特許権の出願件数も挙げられる。世界知的所有権機関(WIPO)発表の「2013年特許国際出願件数」によると、国別で米国がトップで約5万7000件、2位が日本の約4万4000件。以下、中国、ドイツ、韓国と並ぶ。

 そこで、米国は10.8%増、中国は15.6%増と勢いを見せる。一方で、日本は前年比0.6%増にとどまる。世界の企業ではパナソニック(日本)が1位で、2位は中興通迅(中国)。日本企業でベスト10にシャープ(6位)とトヨタ自動車(8位)が入っている。

 日本の技術力は品質において国際的に信頼性の高い製品とされているが、こうした前提条件あるからこその結果といえる。

 また、世界第一級といわれる商品には、日本企業が提供する部品によって成立している製品が多い。たとえば、アップルのi-Phone。組立は中国で行なっているが、液晶を含めた主要パーツの50%以上が日本製だ。また、携帯電話に必須の部品とされるセラミックコンデンサーは、村田製作所をはじめTDK、太陽誘電など、日本企業が世界の80%のシェアを占めている。

 自動車部品でも電動可倒式リモコンドアミラーなどに組み込まれる小型モーターの90%は、子供のころに模型作りで親しんだ、あのマブチモーター製だ。カーエアコンのコンプレッサーもトヨタ系のデンソーや豊田自動織機、日産系のカルソニックカンセイ、独立系のサンデンほか日本のメーカーが70%を超える世界シェアを持っている。

 鉄に比べて強度は10倍、重量は4分の1という炭素繊維は、東レ、帝人、三菱レイヨンの3社が世界生産の70%を占める。航空機分野でその強さと軽さに着目して、ボーイングの新鋭機787に東レの炭素繊維複合素材が採用、エアバス次世代中型機にも帝人の炭素繊維複合素材が供給されている。自動車メーカーでも、数年前に炭素繊維を多用した高級スーパースポーツ「レクサスLFA」が発売。今後、量産車での採用を目指して、研究開発を進めている。

 しかし、多様な分野で非常にレベルの高い技術力をもちながら、それを製品化し事業展開に結びつける戦略性に欠けるのも日本の特徴で、国際的に日本は「技術で勝利するも、ビジネスで負ける」というパターンを繰り返してきた。「科学技術立国」を本当の意味で成立させるには、技術力を生かすマネジメントの仕組みと基本戦略の再構築が必要となりそうだ。(編集担当:吉田恒)