日本経済新聞によると、企業の内部留保が増え、2013年度末には304兆円と過去最高を更新したことが明らかになった。しかし、巨額の内部留保をめぐり政治と企業の間で駆け引きが繰り広げられている。それに加え、企業自身も内部留保の取扱いに頭を痛めている。内部留保とは企業がその年に稼いだ純利益から株主への配当金を支払って残った剰余金を蓄えたものだ。貸借対照表では「利益剰余金」として計上され、資本金などと合わせて純資産を構成する。その役割は主に3つある。1つ目は運転資金としての手元資金。2つ目は設備投資やM&A(合併・買収)に充てる成長資金。そして3つ目は配当など株主に還元する資金だ。
政府は成長戦略の素案に「企業が内部留保をため込むのではなく、新たな設備投資などに活用していくことが期待される」という文言を盛り込んだ。積み上がった企業の内部留保を設備投資に環流させたいと考えているのだ。しかし、金融危機の後の資金繰り不安を経験した中小企業は手元の運転資金を厚くしたいと考えている。中小企業の手元資金は07年度末の約18%から約20%にまで高まっている。一方の大企業はM&Aによる成長力の強化に積極的だ。第一生命保険<8750>の米中堅生保の買収や、ソフトバンク<9984>の米携帯電話3位スプリントを通じての業界4位Tモバイルの買収など、大企業は巨額のM&Aを積極的に進めている。
企業が頭を痛めているのは政府との駆け引きだけではない。利益剰余金をめぐっては株主からの厳しい目線にもさらされている。とりわけ、日本のマーケットで存在感を増している外国人投資家の目線はシビアだ。彼らは株式投資の物差しとして自己資本比率(ROE)を重視する傾向がある。ROEは純利益を内部留保を含む自己資本で割って計算するため、内部留保が膨らめば数値は低下し、その企業の株は敬遠され株価も下がりやすくなる。また、配当による株主への利益還元がこれまでよりも一層強く求められるようになっている。
成長戦略という錦の御旗を振りかざし内部留保から設備投資への資金の流れを誘導したい政治という外敵の圧力を受け、内からは資本効率の改善や利益還元を求める株主の厳しい要求を突きつけられ、企業は頭を悩ませている。(編集担当:久保田雄城)