安倍晋三総理は内外情勢調査会で19日、講演し、「格段にパワーアップした成長戦略を携えて(1年ぶりに)この場に戻ってきた」として本論に入った。パワーアップした核部分について安倍総理は「コーポレートガバナンスの強化、岩盤のように固い規制・制度の改革、女性の活躍、経済連携の推進、法人実効税率の引き下げ」と列挙した。
そして、集団的自衛権の行使容認の基本方針を閣議決定し、具体化へ取り組む安全保障法制の整備など安倍総理が就任直後から実は最も狙っていた政策については「安全保障と経済とは別次元の話でない。極めて密接な関係がある」とし「海の安全保障は自由貿易の大前提。深化したグローバル経済を海や空の安全保障政策抜きに語れるでしょうか」と強調した。
また、日米安保条約改定を図った祖父・岸信介氏と当時・祖父の秘書官だった父・安倍晋太郎氏のやり取りを紹介し「得意な経済で勝負しましょうと(父が)強く進言したそうですが、祖父は『確かに経済政策は重要だ。しかし、同時に安全保障は国の基本であり、やり遂げなければならない。政治家以外には誰もチャレンジできないのだから』と答えたそうです」と述べ、「安保条約改定を実現し、日米の絆を確立したことによって、その後の平和と繁栄がもたらされたことも明確な事実」と日米深化が安全保障と経済の繁栄につながるとアピールした。
そして「いわゆるグレーゾーンに関わるものから、集団的自衛権に関わるものまで、切れ目のない安全保障法制の整備に向けて準備を進めていく」とし、懸念が消えない集団的自衛権行使にかかわる部分については「他に手段がないときに限られ、かつ、必要最小限度でなければならない。憲法解釈の基本的考え方は何ら変わらない」と理解を求めた。
国会答弁や記者会見で繰り返した「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことも決してない」とも改めて訴えた。
総理は「このように明確に申し上げても、なお、日本を戦争する国にしようとしているといった、いわれなき批判があり、戦争に巻きこまれる、果ては徴兵制につながるといった、まったく根拠のない、不安を煽るだけの批判がある」とし、「60年安保改定の時もたくさんあった」と、これらを「根拠なき批判」とした。
しかし、批判を産んだ本人こそ、安倍総理だということを踏まえることが大切だ。日本を取り巻く安全保障環境の変化を根拠に、集団的自衛権について、自民党政権の下でも歴代内閣が一貫して「国家として権利は有するが、憲法9条の下では行使できない」と堅持してきた憲法解釈を、憲法改正という高いハードルを避けて、与党協議のみで閣議決定し、事実上の改正をやってのけた事への批判は『いわれある批判』といわざるをえない。
あわせて、徴兵制につながるとの見方も100%を否定することができないところにこそ問題がある。集団的自衛権行使容認が具体化して自衛官が激減すれば、現行の志願方式で必要な人材を確保、維持し続けられるだろうか。現行でさえ定員を割っている。「徴兵制になりかねない」(共産党・志位和夫委員長)との指摘は全く外れているとは言えない。
また「徴兵制は憲法18条で禁止された『奴隷的苦役』にあたる」として政府は「徴兵制は憲法違反になるので、できない」としているが、石破茂地方創生相は自民幹事長時代に「徴兵制が奴隷的苦役との議論には賛成しかねる」と明言している。
国会答弁で内閣法制局長官は「有事の下でも徴兵制は現行憲法下ではとれない」と明言したが、内閣法制局長官の答弁さえ変えさせた前例が集団的自衛権に対する解釈変更であったので、担保力は弱い。
志位委員長は「9条(戦争の放棄)さえ勝手な解釈変更をする勢力が、18条の解釈変更をしないと誰が保障するのか?」と警告している。
筆者も過去のコラムで提起したが、徴兵制は苦役であるとの解釈が政府の解釈であるため憲法違反といえるわけで、徴兵制は苦役にあたらず、国家存立を維持し、国民の権利を確保するための義務だと解釈変更がなされれば、徴兵制を違憲とする根拠事態がなくなる。この危険性を疑う国民の不安や不信感に対し、政府は払拭するだけの裏付け(担保するもの)が必要だろう。
自衛隊員の確保への不安解消、徴兵制を取らずに必要な人材を確保し続けることが見込める根拠や方策、昨年の国会で総理が述べた「何が自由や民主主義を担保しているかといえば、日本国という存在によって担保している。日本国そのものが危機に瀕したときには自由や民主主義や法の秩序を守るためにも(国民に)様々な協力をしていただく。しかし、それは兵役ではない」とした答弁。有事にも兵役をかさないで国家が堅持できるのか。有事でさえ徴兵制を「とれない」し、「とらない」とする政府の説明こそ信用できる担保が見つからない。「根拠なき批判」で片づけられては国民の疑問解消にはならない。これら疑問への国会での議論を期待したい。(編集担当:森高龍二)