エネルギー問題に取り組む米国企業のBNEFは、原発の発電コストが1キロワット時当たり約15円になると発表した。04年時に日本政府が出した5.9円という試算は正確性に欠けると指摘する国内の専門家もおり、原発再稼働を急ぐ政府に疑問を禁じ得ない。
日本国内全ての原子力発電所が停止して1年が過ぎた。電力需要がピークとなる夏も大きなトラブルなく乗り切ることができた今、原発の必要性についてますます議論が高まるところとなっている。しかし政府は、かつての民主党政権時代から唱えられた「2030年代原発ゼロ」政策に完全に背を向け、原発の再稼働に向けて準備を進めている。原子力規制委員会は9月10日、鹿児島県にある川内原発の1、2号機について安全審査の合格を正式に発表し、今冬にも再稼働する計画だ。
地元市議会は原発の再稼働推進派が多数を占めているが、市民の感情は複雑のようだ。原発関係で働く住民も多く、仕事や雇用の面でメリットを受けている部分もあり、原発を失えば生活の基盤が揺らぐという人もいる。一方、福島で起きた事故では未だに責任問題が曖昧なままであり、避難計画や放射能漏れ対策が確立しないまま再稼働を急ぐことに強い不信感も覚えている。特に避難先や避難経路に関しては問題点が多い。避難経路として挙げられている道路は高潮や津波が起こった場合寸断されることが予見され、避難所には医師を配備する計画もなく受け入れ先施設と行政の連携も成り立っていない状態だ。
政府は福井県の高浜原発3、4号機と、佐賀県の玄海原発3、4号機の審査も着々と進めており、今後全国各地でなし崩し的に再稼働が始まる可能性もある。しかしここに来て原発の是非を問う議論に新たな疑問が浮上した。エネルギー問題の調査機関である米国企業「ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス」(BNEF)が、原発のコストは陸上風力よりも高く、太陽光並みにかかると発表したのだ。
BNEFは世界各国を対象に、地熱、埋め立て地ガス、小規模水力、大規模水力、陸上風力、洋上風力など23の発電手法を設備費、燃料費、資金調達に必要な債務費や施設の耐用年数を考慮に入れた上でコストを算出した。その結果、原発を新設した場合にかかる発電コストは、世界的に1キロワット時当たり平均14セント(約15円)となることが分かった。04年に日本政府が行った試算の1キロワット時当たり5.9円と比べると約3倍近くにもなる。
なぜここまで数字に開きが生じるのか。日本政府試算の5.9円では、放射性物質の再処理費用が現実性のない低い数字に抑えられており、放射性物質を廃棄するための関連施設の建設費や、事故対策費用が含まれていない。コストを抑えて発電できるという原発のメリットを前面に押し出すために政府にとって都合の良い数字を叩き出す試算だったとも言え、正確さに欠けているのだ。立命館大の大島堅一教授も「日本の試算は過小評価。BNEFの1キロワット時15円に驚きは感じない」と述べている。
一方BNEFの試算は、福島原発の事故後に安全規制対策が強化され施設の耐久性を高めるために多額の費用が必要となったことで、コストが上昇したとしている。放射性廃棄物の処理費用としての電力会社の積立金を含んでいるが、廃炉費用は含んでいない。
もしも廃炉まで考えた場合、コストはどこまで膨らむのか予想がつかない。廃炉には制御棒を挿入した後、核燃料の冷却に数年がかかる。炉を完全に停止し使用済み核燃料の処理や放射性物質の除去を経て、ようやく建物の解体作業に入ることができる。英国のトロースフィニッド原発を例に挙げると1993年に作業を開始してからすでに21年が経過しているが、最終処理段階に達するにはあと70年はかかるとされている。廃炉費用は天文学的数字にのぼるだろう。
放射能漏れ事故、放射性廃棄物処理、廃炉問題など、もはや原発は負の遺産しか生み出さないのではないか。8月に実施された全国世論調査でも、原発の再稼働に反対するのは57.3%で賛成は34.8%だった。再稼働に踏み切る前に今一度、脱原発を真剣に考える必要を感じる。(編集担当:久保田雄城)