派遣法採決「11月上旬」? 急ぐ与党

2014年10月25日 12:22

 日本経済団体連合会など経済団体提言通りに動いているかの様相の安倍内閣と与党が派遣労働の大前提とされる「同一労働同一賃金」をきちっと法定しないままの労働者派遣法改正案を11月上旬にも採決し、早々に成立を図る構えという。

 民主党の山井和則衆院議員(党派遣労働・ワーキングプア対策本部事務総長)が「与党側から11月上旬に法案採決したいとの話が来ている」と派遣社員との意見交換会で語った。

 派遣労働利用事業所は雇用調整弁の役割・機能に期待するところが大きい。スキルアップした熟練技術を持つ有能な人材を正規でなく非正規で、しかも正社員の半額程度のコストで従事させることができれば、これほど経営側にとって都合のよいシステムはない。

 しかも、自社正社員と働かせればその技術や能力を自社正社員のスキルアップにいかせるのだから副次的効果も大きい。

 法案には最低限「同一労働同一賃金」を義務付け、違反事業所を公表するとともに、罰則規定を設けるべき。労働法制はもともと労働・雇用関係において、立場の弱い労働者を法的に守るために生まれてきた。これを踏まえれば、派遣社員で働く労働者の労働環境をいかに確かなものにするかに視点を置いた法的な担保が必要だ。

 「アベノミクスで雇用情勢は改善した。所得も増えた」と安倍総理は強調するが、実質賃金は14か月連続して前年を下回っている。世界で最も企業が活動しやすい国にするのが、国民全体の幸せにつなげるためのもの(?)なら、共産党の志位和夫委員長が指摘する通り安倍内閣でのこの1年での大企業400社の利益配分の在り方から「メスをいれるべき」ではないか。

 志位氏によると「400社の利益はこの1年で9兆円から18兆円に倍増。1人当たりの役員報酬は11%増、株主配当は総額で23%増、内部留保は23兆円増えた」という。一方、「労働者の給与総額は1%増」にとどまった。

 こうした利益配分構造の是正は、最悪、法定レベルにまであげるくらいの取り組みが必要だ。特に国民全体の暮らしのレベルアップには最低賃金の引き上げや低所得者層の所得の底上げ、若年層の正規雇用確保への政策に心を砕くべきだろう。

 安倍晋三総理は安倍政権誕生から就労者が増えたという。しかし正規雇用は減少している。この事実にほとんど触れない。国税庁が昨年民間企業で働いた給与所得者の平均年収を公表した結果、正規が減り、非正規が増えた結果200万円以下の給与所得者は前年より30万人増え、1120万人。給与所得者の24.1%を占めるまでになった。

 労働者派遣法の改正は不安定な非正規雇用増大と派遣労働の期限廃止により危惧される正規労働から派遣社員への切り替え増加につながる危険が指摘される。これを抑制する仕組みつくりが必要だ。

 民主党が行った派遣労働者との意見交換会では、産休取得を希望した派遣社員が11月で契約を打ち切られたという。この女性は「正社員と同じように仕事をしていても、派遣ということで言いたいことも言えず、正社員の顔色を伺うような感じ。何かを言うことで契約を切られるのではないかという不安がいつもあった」と不安定な雇用の立場を語った。

 大手精密機器メーカーで働いていた派遣の男性は生産調整を理由に雇い止めにあった。男性は「非正規雇用での恋愛や結婚、出産はありえないと感じている」と安倍政権が少子化対策を掲げながら、派遣法改正で生涯派遣労働者を創出しようとしている「改正案は改悪だ」と訴えた。男性は技術職だが「正社員の半分以下の賃金だった。女性派遣社員へのセクハラも見た」という。

 民主党の枝野幸男幹事長は「生涯派遣で低賃金、なおかつ厳しい労働環境での働き方がますます増えてしまう法案だ」と国会審議でこの危険を明らかにしていくと強調した。塩崎恭久厚生労働大臣や安倍晋三総理らとの論戦で、法案の問題点をより鮮明に国民の前に示すことがまず法案是非への世論作りになろう。「同一労働同一賃金」を法定させることは最低条件といえよう。(編集担当:森高龍二)