2012年に作製者の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことも記憶に新しいiPS細胞。再生医療実現のための切り札として期待されている他、難病が発生するメカニズムの解明や治療方法の確立に役立つとして様々な研究が国を挙げて進められている。
そんな中、今年9月には理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらと先端医療振興財団のチームによって初のiPS細胞移植手術が行われた。世界中から注目されたこの手術は、患者である70代女性自身の細胞から作られたiPS細胞を網膜細胞に分化。その後、シート状にして右目に移植するというものであった。手術の翌日には女性が「見え方が明るくなった」と話すなど経過は良好で、一ヶ月以上経った現在でも特に問題は起きていない。
加齢黄斑変性とは目に起こる難病で、視野の中心部である黄斑の異常により視覚が著しく歪んでしまう病気だ。根本的な治療方法は未だに確立されておらず、視力低下を遅らせるための注射や不要な血管にレーザーを照射するなどの対処療法しかない。今回手術を受けた女性も既に何度と無く注射を受けたものの視力の低下は止まらなかったという。
今後は4年間に渡って定期的な検査を行い、手術の有効性や安全性を確認していく計画だ。また、手術は残り5人に対して行う予定で、一日も早い根治療法の確立を目指す。
iPS細胞移植手術を誰もが受けられるよう一般化するにはまだまだ長い時間が掛かりそうだ。安全面の検証作業などクリアしなければならない課題は多い。患者にとっても今回の手術のように移植細胞の作製に1年以上掛かり、費用も数千万円必要というのでは利用することはなかなか難しい。安全性と共に患者の負担軽減に関する取り組みが強く望まれている。
山中氏が所長を務める京都大iPS細胞研究所では再生医療だけでなく筋ジストロフィーやアルツハイマーに対する新薬開発のためにiPS細胞を生かす研究も着々と進んでいる。
iPS細胞実用化に向けての動きはまだ始まったばかり。これからはますますiPS細胞に関するグッドニュースが増えていくことだろう。(編集担当:久保田雄城)