被災地から「牛肉研修」 オーストラリアの戦略とは

2014年11月24日 10:12

 「オージービーフ」の名前で有名なオーストラリア産の牛肉。実はこのオーストラリア産牛肉の生産者団体「MLA豪州食肉生産者事業団」が日本にも駐日代表を置いていることをご存知だろうか。11月12日、この生産者団体が運営する「トゥゲザー・ウィズ・ジャパン」というプログラムの記念セレモニーが、在日オーストラリア大使館で開催された。「トゥゲザー・ウィズ・ジャパン」は、震災で被災した3県出身の学生をオーストラリアでホームステイ・職業体験させるプログラムであり、運営基金はオーストラリアの肉牛農家、輸出企業、業界団体が提供している。

 今回このプログラムでオーストラリアでの研修に参加することになったのは、4名の大学生と1名の高校生だ。いずれも被災地の出身であり、畜産にかかわる学生たちである。

 記念セレモニーでスピーチを行ったブルース・ミラー駐日オーストラリア大使はこのプログラムを「オーストラリアの肉牛産業による日本へのコミットメントの素晴らしい一例」と自画自賛するが、実際には親豪的な日本の業者を学生時代から育てるためのプログラムであることは明らかである。このプログラムの参加条件には「自家で肉牛飼育を行っている、あるいは過去に行っていた」という項目もあり、彼らが狙うのが「可能性」ではなく「現実」に投資することだということが見て取れる。

 私たちは普段あまりオーストラリアとの関係を気に留めることはないが、実は日本とオーストラリアの貿易関係は深く、2015年初めには日豪経済連携協定(EPA)が発効する予定だ。この協定が発効すると、日本は豪州産牛肉関税を現行の38.5%から冷蔵は23.5%、冷凍は19.5%へと段階的に引き下げることになる。これまでも日本の市場に着実に浸透してきたオーストラリア産牛肉はさらに身近なものになるだろう。

 日本とオーストラリアはこれからもつながりを深めていくことになるはずだ。その関係の深化を見越して、オーストラリアはその関係を最大に利用するべく人材の「育成」にかかっている。これは「侵略」というにはあまりにもソフトなものかもしれない。しかし、日本もオーストラリアに負けることなく日本に好意的なオーストラリア人や企業を育てる取り組みをしなければならないだろう。日本は紛れもない経済の国だ。経済力を高めるオーストラリアのような努力を、真似していくべきだろう。(編集担当:久保田雄城)