11月1日から過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が施行され、1ヶ月が経った。同時に今年から11月が「過労死等防止啓発月間」に制定され、過労で家族を失った遺族や、医師、弁護士などを中心として、過労死防止シンポジウムも全国各地で行われた。
過労死の原因は、常態化された長時間労働や残業、さらにパワーハラスメントによる精神的苦痛、それらによるうつ病などだ。しかも多くのケースが、そうした異常な状況にあっても本人は言い出せず、職場はその問題を黙殺し、最悪の結果を招いている。
過労死防止法施行の大きな意味は、「過労死」の明文化・法整備と、国や自治体に防止義務を課している点にある。一方で、具体的な長時間労働の禁止や、それに関する企業主への罰則などは定められておらず、あくまで理念・課題として方向性を示したにとどまっている。今回の法整備により、自治体や公共団体などの窓口で、過労死や劣悪な労働環境についての相談などはしやすくなるだろう。国や自治体から、企業に対し牽制する動きも高まるかもしれない。しかし、それだけではなかなか根本的な解決が難しいのも事実だろう。
総務省の2013年度労働力調査によると、法定外の残業をしている人は62%となっている。もちろん、ここに含まれていないサービス残業も山のようにあるだろう。変わりつつあるものの、日本では「早く帰る奴はやる気がない」という風潮がいまだ強く根付いている企業も多い。なあなあで残らざるを得なかったり、仕事へのやる気や忠誠心を計るのに長時間労働が尺度になっていたりする悪習もある。さらに近年では、入社早々から結果を求められ、若い働き手が右も左も分からないまま長時間酷使されるケースも多い。こうした日本全体に根付いている働き方の意識自体を変える必要があるだろう。
具体的な対策として提唱されているのが、EUで採用されている休息時間の義務化だ。これは「勤務間インターバル制度」と呼ばれ、勤務開始から24時間以内に必ず連続11時間以上の休息を与えることをルール化するというものだ。労働時間や残業時間を決めるのではなく、「最低でもこれだけ休もう」と休息の方に焦点を当てることで、具体性の面でも意識改革の面でも期待されている。
しかし、どれだけルールや法を改正しても、雇用主や上司、組織全体の意識が変わらなければ問題は解決しない。長時間労働は効率やモチベーションの低下、人件費の圧迫などの面でもデメリットが大きい。組織側がそれを認識し、勇気をもって自浄作用を行う必要がある。
人は生きるために働いているのであって、働くために生きているのではない。過労死などあってはならない最たるものだ。働くことを正しい意味で人生の喜びにするためにも、個人レベルでも組織レベルでも、より労働環境については考えられるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)