京大など、大腸がんの浸潤・転移が促進される機構を解明

2014年12月08日 09:05

 消化器がんは、がんの中でも最も死亡率が高いとされている。特に肝臓や肺へ転移しやすく、このことが死因となっているため、その機序の解明および予防・治療法の確立が急務となっている。今回、京都大学の武藤誠国際高等教育院特定教授・医学研究科名誉教授、園下将大医学研究科准教授らの研究グループは、Aes(Amino-terminal enhancer of split)の消失で促進されるNotchシグナルに依存する転写によって、大腸がんの浸潤・転移が促進される機構を解明したと発表した。

 この研究は、2011年に本研究グループが発表した論文(Sonoshita et al., Cancer Cell 19:125?37, 2011)を発展させたものである。大腸がん転移抑制タンパクAesが減弱・消失することで起きるNotchシグナル伝達の活性化が、Trioという巨大なタンパクの特定のチロシン残基のリン酸化を起こし、下流のRhoタンパクの活性化による大腸がん細胞の浸潤・転移を促進することを解明した。

 その概要は、Notchシグナル伝達により転写される新規遺伝子の一つは、アダプタータンパクの一つDab1である。Dab1はチロシンキナーゼAblによりリン酸化されて活性化し、一方、こうして活性化したDab1は、Ablの自己リン酸化を促進することでAblを活性化するという。

 こうして活性化したAblの大腸がん細胞におけるリン酸化標的分子の一つは、RhoGEFタンパクの一つTrioである。2681番目のチロシン残基がAblによってリン酸化されたTrio(Trio(pY2681))は、RhoGEF活性によってRhoタンパクの活性化を招来し、大腸がん細胞の浸潤・転移を促進することがわかった。

 また、Trio(pY2681)は、大腸がん患者の予後(術後生存率)と強い負の相関を示す。これらの結果は、大腸がんにおいてNotchシグナル伝達の下流で起きるTrio(pY2681)を用いて患者の予後予測が可能であることを示すと同時に、既存のAbl阻害薬を用いて浸潤、転移の予防を目指す補助化学療法が可能になることを示唆しているとしている。

 筆者は父親を大腸がんで失った。がん全般はもちろんだが、その苦しみは大変なものがある。今回の解明によって治療が進展することを願う。(編集担当:慶尾六郎)