あの“婚約破談”から4年半……。サントリーホールディングス(HD)とキリンHDの立場が逆転した。2014年の中間決算で、サントリーが売上高で長年業界首位だったキリンを抜き、初めて首位に立った。
新聞では「キリンのひとり負け」の見出しが踊った。キリンHDの売上高は前年同期比3.6%減の1兆562億円、純利益は76.5%減の140億円。キリンのビール類の販売数量に占める「発泡酒、新ジャンル類」の構成比は65%と高く(アサヒは35%)、その9割以上を家庭用需要が占める。消費増税後の駆け込み需要の反動減は家庭向け商品が大きく、キリンはその影響をモロに受けて落ち込んだとみるのが一般的だ。
サントリーHDの同期売上高は18.0%増の1兆1089億円。キリンHDを527億円上回り初めて首位に躍り出た。5月に買収した米ウイスキー大手ビームの売上が寄与した。また、新ジャンル「金麦」が好調だったことの後押しにつながった。しかし、純利益は41.8%減の171億円となった。これは、ビームの買収費用が計上されたため。2014年12月期(通期)の売上高予想はサントリーが19.6%増の2兆4400億円、キリンは0.2%増の2兆2600億円。サントリーがキリンを上回る。
また、14年中間期のビール大手のアサヒグループHDの売上高は3.9%増の8112億円、純利益は25.5%増の193億円。キリンHDは売上高でアサヒを上回ったが、純利益ではアサヒに逆転された。ビール類の国内シェアでみると、アサヒが38.1%、キリンHDが33.1%となり、その差は前年同期の2.1%から5.0%に拡大。キリンHDは2010年にアサヒにトップシェアを奪われて以降、徐々に水をあけられている。「キリン失速」が、明白だ。
2009年、キリンとサントリーが統合交渉をしていることが明らかになった。が、創業家が経営実権を握るオーナー企業であるサントリーとキリンは、経営方針をめぐり最後まで合意できず、統合交渉は決裂した。
その後、ブラジルのワールドカップ・サッカー大会を前に、ブラジル2位のビールメーカーを買収して「ブラジルキリン」を設立するも、その売り上げは低迷。ブラジルキリンの前身「スキンカリオール」創業家は、販売低迷にあえいでいたビール会社を高値で売り抜け、巨万の富を手にしたといわれる。つまり、「キリンはババをつかまされた」という辛辣な見方もある。キリンはW杯日本代表の公式スポンサーになり国内ビール類販売増を見込んでいたが、日本代表チームは予選で敗退、国内販売への効果はほとんどなかった
キリン失速の背景には、海外、国内ともに経営の誤算が重なったことがある。そして年末、キリンHDは、年明け2015年3月に傘下のキリンビール磯崎功典社長がHDの社長に就任すると発表した。三宅占二・現社長は代表権のない会長に退く。新体制を敷く目的は明らかだ。磯崎氏がキリンの持株会社を引き締め、ビール事業などと一体運営することにある。
中間持株会社であるキリンを設立したのは2013年。キリンビールなど統括する3つの国内酒類・飲料事業が強みを発揮するように人材配置や研究開発の機能統合を進めてきた。また、海外への投資のため国内市場で資金を確保することも命題だった。しかし、これが裏目に出て、キリンHDとキリンの間で情報共有などが遅れ、迅速な経営判断ができなかったという。事実、大手外食チェーンなどとの取引が競合他社に奪われるなどの厳しい営業が続いている。
新体制ではキリンHDの執行役員はキリンの役員を兼務し、意志決定のスピードアップを図るという。キリンHDの2014年12月期で、売上高でサントリーHDに抜かれ業界首位から陥落する。また、アサヒグループHDにも時価総額で逆転を喫する。新体制を引っ張る磯崎氏も「状況は厳しい……」と述べる。
が、明るい面もある。9月に投入したプリン体・糖質ゼロの発泡酒がヒットし、主力のビール「一番搾り」家庭用販売が秋以降2ケタ増となるなど復調の兆しもある。この反転攻勢を確実なものにするための新体制、果たして奏功するか?(編集担当:吉田恒)